
最近、社会人教育の中でチーム学習というものが徐々に脚光を浴びてきているように感じています。ある会社では、階層別研修を単発の研修で終わらせるのではなく、長期のプロジェクト型の研修へと変える中で、仮想のチームを組んで共同研究の形で共に学び合うといったスキームを用意することも増えています。また、求められるスキルが多様化する中で、スキル同志を掛け合わせてチームとして力を現場で発揮しなければならない環境も、脚光を浴びてきている要因のひとつになっているようです。
目次
チーム学習とは?
古くは米国の経営学者ピーター・センゲが著書「学習する組織」において提唱した「訓練法」の一つです。
メンバーがチーム内外の人たちとのダイアログ(対話)を通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、お互いの意識合わせを行うプロセスをいいます。
どちらかといえば自組織においての学習を指している概念でしたが、最近ではチーム学習はもっと広義な意味合いで捉えられるようになってきました。
例えば、会社の階層別教育において、通年で仲間と一緒に学ぶといったこともチーム学習のひとつといえるでしょう。

なぜチーム学習か?
学習転移の観点
学習においての大きな課題として、個人で学んだスキルや概念を現場で活かせないということがあります。
専門的にはこれを「学習の転移」が起こせなかったと言います。
学習の転移が起こらない要因としては様々だと思いますが、学習の場と現場には差が生まれることが考えられます。
環境が変われば学習の転移をする難易度も変わってくるので当然かもしれませんが、大きな要因の一つといえるでしょう。
また、学習したメンバーと現場のメンバーの知識の差が生まれることも要因の一つといえるかもしれません。
例えば、新入社員がビジネスマナーを研修で学んできて現場に配属されたとします。
その際に、元気に挨拶をすることを学んだ新入社員が挨拶をしたところ、現場の社員が挨拶を返さなかった。
そうなると、この新入社員は徐々に挨拶をしなくなり、せっかく学んだ挨拶というものが活かされないという事象が起こり得ます。
つまり、難解なものでなくても現場と学習の場の差が発生するだけで、学習の転移が起こせないケースがあるということです。
このように、個人で学んだことが現場で活かされないことは多々ありますが、もしも同じ組織の人達が一緒に学習をするとどうなるでしょうか?
おそらく、いくつかの学習転移が起こらない理由が減るのではないでしょうか。少なくとも「元気に挨拶をする」ことの達成には近づくはずです。
継続の観点
「何かを学んでいてもなかなか続かない」というお悩みを持つ方もいるように、継続をすることは簡単なことではありません。
何でも続ければ良いというわけではありませんが、イギリス出身の元新聞記者・マルコム・グラッドウェル氏が提唱した1万時間の法則にもあるとおり、ある分野のエキスパートになるにはある程度の練習・努力・勉強が必要になります。
しかし、一人では続けれられない人でも、サークル活動などのコミュニティがあれば続けられたという人もいるのではないでしょうか?
三日坊主という言葉もあるように人は怠惰な生き物とも言われており、個人だとどうしても意思の強さがないと続けられないかもしれません。
そこをチームというコミュニティを活かして学ぶことで、互いに切磋琢磨し、応援し合う事で学びが継続しやすくなります。
チームになるスキル
アフリカのことわざに「早く行きたければひとりで行け。遠くへ行きたければみんなで行け。」というものがあります。
このことわざはまさにチームの意味を教えてくれるものであると思います。
複雑化された現代においては、一人でできることには限界がくることが予想され、誰かと一緒に動けるということは必要不可欠なスキルと言えるかもしれません。
今後はおそらく日本において「雇用時に職務や勤務時間など条件を明確にした契約を企業と結び、契約の範囲内でのみ働く」というJOB型の働き方が主流となってくるでしょう。
そうなると一人で作業をこなすというよりも、チーム/グループで作業を創ることになってくると予想されます。
また、スピードが求められるビジネスの世界では、素早くチームになることが求められます。 その点においても、チーム学習で「チームになる」ということを経験することも非常に有意義ではないでしょうか。

チーム学習に大切な4つのP
米国にあるマサチューセッツ大学のメディアラボにいるミッチェル・レズニックは、チーム学習では4つのPが重要であると提唱しています。
Projects「実際の課題を使う」
座学では実際の現場が想像できず、リアリティのある学びとならない傾向があります。そこでリアルな課題を扱うことで、学びがより深くなると提唱しています。
Pears「仲間とやる」
一人の学びでは一度躓くとその先へ進めなくなってしまいがちですが、仲間と一緒であれば疑問点を話しながら共に学習し、悩んだときには気軽にメンバーに相談できます。
Passion「情熱をもってやる」
上から与えられた学習では、やらされ感でやる気も出なくなる傾向が強くなりがちです。しかし、自分たちの興味関心からテーマを選択できれば、熱心に取り組むことへとつながります。
Play「遊びながらやる」
決められたやり方以外は、認められない状態だと創造性が生まれづらくなります。
楽しみながら試行錯誤しながら進めることで、今までと違う解決策が思いつきます。

チーム学習の進め方
目的設定
どんな学習でもそうかもしれませんが、目的をもって取り組む学習とそうでない学習では、学びの深さや習得までのスピードなどに大きな差が生まれる事は想像に難くありません。
もしも自分が3か月後に日本人が一人もいない海外駐在が決まっている状態であれば、英語を学ぼうという意欲は何もない状態よりもかなり強く働くでしょう。
このようにチーム学習では、まずチームで何を目指しているかを明確にして目標設定をすることもおすすめします。
もしチームが普段一緒に働いているチームであるなら、その業務上の目的を合わせることが一歩目になることが多いでしょう。
また、もし階層別研修で集められた普段一緒に動いていないチームであるなら、何かテーマを決めると良いでしょう。
例えば、1年間かけて「新規事業を考えよう」だったり、「企業ブランディングを考えよう」だったり、「現場の改善案を考えよう」といったことがテーマに挙げられるかもしれません。
テーマを自分達で考えることで、自主性が芽生え学びへの意欲が高まるでしょう。
メンバー設定
チーム学習においては、メンバーの選定とメンバーの数も重要となってきます。
メンバーの選定はできるだけ普段一緒に動いているメンバー全員が入っていると良いですが、人数が多すぎるのも考えものです。
アマゾンの創業者であるジェフベゾスは「2枚のピザ理論」というものを掲げ、チームの人数は2枚のピザを分け合える人数がちょうどよいと提唱しています。
これは「大人数のチームを作っても結局は少数の人間がイノベーションを起こし、他の者は追随するだけになる。それならばチームを作る必要はなく、全員がイノベーションに積極的に参加できるようなチームが理想だ」という考えです。
人数としては5~7人程度でしょうか。これくらいの人数であれば、それぞれが自分毎化し、それぞれがさぼることもない人数と言えるかもしれません。また、できるだけ多様性のあるメンバーにすることで、それぞれの違いを活かした学びにつながっていきます。
最初は同じようなタイプの人を揃えたほうがやりやすいでしょうが、是非とも今後を見据えてタイプの違う人をメンバーにしてみてください。
補足教材について
チーム学習では基本的にはテーマがあった方が良いことはお伝えしましたが、このテーマ内容は対話の中から答えを見出していくことが最も重要です。
しかし、実際には今まで取り組んだことのないテーマであれば、何から手を付けたら良いかが明確にならないことと思います。
そんな時は、是非とも動画学習や共通の本を読むなどして、知識の上積みをしましょう。ここが大きな成長のポイントです。
今までの知識だけでは、自分達の枠組みの中でしか新たな発想は生まれてきません。そこで、動画を見たり本を読むことで、新たな発想の糸口をつかむことが重要です。
「必要は発明の母」とはよく言ったものですが、「必要は学びの母」とも言えるのではないでしょうか。
動画や本はできるだけチームのメンバーと一緒に見ることをおすすめします。同じものを見ていることで共通言語がつくられ、チームとしての動きがスピードと質の両面で上がっていくでしょう。今では安価な動画も多くでていますので活用してみてください。

最後に
既に記載していますが、今後チームで動くことはビジネスパーソンにとって当たり前になっていくことが予想されます。
その中で、チーム学習はその「チーム」の底上げをする大切な武器となってきます。
まずは、小さなことからで構いません。職場のメンバーと一緒にyoutubeなどを見ることからチーム学習をはじめてみてはいかがでしょうか?
この記事を書いた人
栗林 陽
(株)TOASU DI室リーダー/チーフディレクター
大学卒業後、大手IT業界、海外経験を経て現会社へ入社。日本の継続的、健康的な成長を願い、企業向け研修の企画、営業に従事。その後、営業だけでなく0からの研修企画、作成が認められ、社内での新規事業のリーダー職を担う。現在は「チーム」へ向けた今までにないサービスを作成中。座右の銘は「少しでも良い社会のために」。本業の傍ら、地域活性にも参画。大学まで続けたサッカーは今でも毎週行っている。