大手企業内でイノベーションをおこすために

大手企業内でイノベーションをおこすために

ある調査によると、企業での新規事業において、成功しているのは30%程度なのだそうです。成功とは利益がでているか、で考えるとすると、イノベーションという観点ではもっと低いことが想像できます。

ひと昔前は、日本でも多くの先駆的な製品が世界中で使われていました。それらには、ソニーのウォークマンや、プレイステーション、新幹線やそれを構築する緩まないナット等々数多くありました。ちなみに日本のトイレは今でも世界で人気があるようです。

しかし、GAFAMの登場などによって、それら日本の製品は相対的に影響力が減ってきています。イノベーションにおいて、技術力は必須です。ところが、それらに関係する日本の論文の数は相対的に減っています。

90年代までは日本はアメリカに次いで2番目の論文を世界に出していました。

その後、2000年代の中国の台頭などで、現在では日本は世界で4番目の論文国家となりました。更に悪いことに、世界で注目される論文では10番目になってしまっています。(文部科学省/科学技術・学術政策研究所(NISTEP)「科学技術指標」2021年版より)

日本が得意としてきた研究分野においても、後塵を拝していることが伺えます。

イノベーションの本来の意味とは

多くの方は「技術革新」と答えるのではないでしょうか。実際辞書にはそのように書いてあります。

技術を用いて,革新的な何かを生み出すという定義は,確かに分かりやすいと言えます。​日本では1958年の経済白書で紹介された際に「技術革新」と記載されたものがそのまま定着したとの説があるそうです。

しかし、それが本当の意味なのでしょうか。​ イノベーションの概念を最初に提唱したのは,オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターです。​彼は1912年に出版した著書「経済発展の理論」の中で,「新結合」という言葉を用いてイノベーションを紹介し,経済はこれを軸にして発展すると説明しました。​経営学者のピーター・ドラッカーも,企業とは成長や拡大のための機関であり,それを可能にするのがイノベーションであると説明しています。

イノベーションの実現

先述のドラッカーによれば,イノベーションは次の7つの機会によって発見されるとあります。​

一つ目として,事業上の予期せぬ事態が生じることがありますが,それは偶然ではなく,何らかの原因があるものととらえ,変更を図ることはイノベーションの機会になります。​

二つ目として,理想と現実のギャップにいち早く気づき,正面から向き合うこと。

三つ目として,漠然としたニーズではなく明確なニーズを発見すること。

四つ目として,産業構造の変化も,見方を変えればゲームチェンジのチャンスとなること。 ​

五つ目として,人口構造の変化も,予測すること。

六つ目として,認識の変化,つまり物事の見方を変えることで新たな価値観に気づくこと。

七つ目として,新しい知識やその活用法を発見すること。

このように,イノベーションは特別な企業や人だけが生み出せるものではなく,誰もが可能性を持っています。その機会やタネを日々探し出す姿勢を持つことが大切になってきます。​企業という単位だけでなく,チームや部署単位でも可能でしょう。​上下関係にこだわらないフラットな組織風土を築くなら,誰もが意見やアイデアを発言しやすくなり,イノベーションは起こりやすくなります。​

しかし、いつも同じ人間関係の中で議論しても,同じような視点や発想しか生まれてきません。​積極的に社外の異質な人たちと交流するようにして,新たな視点や発想を身につけ,アイデア創出力を身につけていくことが必要となってきます。

イノベーションの種類

シュンペーターによれば,イノベーションは5つに分類されるといっています。

プロダクト・イノベーション

すでに存在しているもの同士を組み合わせ,新たな発想や技術を加えることによって,今までとは異なる製品やサービスを生み出すことです。古くは自動車や飛行機,最近では携帯電話やスマートフォンが代表例と言えるでしょう。​

プロセス・イノベーション

新たな生産方法を駆使して,生産の工程を革新的な仕組みへと作り変え,スピードアップやコストダウン,大量生産などを実現することです。​日本の製造業から生まれた「カイゼン」は,代表例と言えるでしょう。​

マーケット・イノベーション

新たな市場へと参入し,これまでとは異なる顧客やニーズを掘り起こすことです。​そのためには,自社の製品やサービスが持つ新たな魅力を引き出す必要があります。​ゲーム業界が,ゲーム好きに向けて一人で楽しめる娯楽を提供するビジネスから,家族で楽しめる娯楽を提供するビジネスへ舵を切ることで,ユーザーの急激な増加を成功させたことは,代表例と言えるでしょう。​

サプライチェーン・イノベーション

生産において,材料や部品の調達から,製造,在庫管理,配送,販売,消費までの一連の流れを「サプライチェーン」と呼びます。​この中で,たとえば新たな調達先を開拓したり,配送を効率するなどの改革によって,新たな価値を創り出すことです。​コンビニエンスストアの各社が,店舗への商品の供給を一元化し,共同配送という形で実現することで交通渋滞を減らしたり,Co2の排出を削減したことは,代表例と言えるでしょう。​

オーガニゼーション・イノベーション

​会社の組織のあり方を見直して再構築することで,成果へとつなげることです。​企業内で新規ビジネスのコンテストを行い,優秀なアイデアを社内ベンチャーとして立ち上げて,大きな事業へと育てる取り組みは,代表例と言えるでしょう。​

イノベーションとは,単なる「技術革新」にとどまらず,これまで存在しなかった価値を創造することを意味しているということです。​その価値の創造は,5つのうちのどれか,あるいは組み合わせによって実現されます。​言い換えるならば,製品やサービスの領域だけで起きるものではないということです。​個々の生産性を高めるためにテレワークを導入することはプロセス・イノベーションと呼べますし,社員の多様性を認めて,働く場所や時間の制約をなくすためにテレワークを導入した結果,新たなアイデアが創出されれば,それはオーガニゼーション・イノベーションと呼んで良いでしょう。​このように,さまざまな新結合によって,世の中の常識や既成概念を一変させる新たな価値を生み出すことで,社会を変えていく。これがイノベーションの本来の意味なのです。

大企業におけるイノベーションのジレンマ

おそらく、1995年に創業したアマゾンは、間違いなく当時のNTTよりも資本は少なかったでしょう。また、ホームコンピューターの礎をつくったアップルはAPPLEⅡを開発していたときに、IBMよりも販売網も、開発力も小さかったでしょう。

しかし、2社ともにその後の躍進はここに書く必要もないほど有名です。

大企業には、優秀な人材、潤沢な資産、研究所、販売網といったものがそろっています。それなのになぜイノベーションが生まれないのかについては、その大家であるクレイトン・クリステンセンの理論である「イノベーションのジレンマ」に答えがあります。 イノベーションのジレンマにおいて、クリステンセンは2つの類型があるといいます。

持続的イノベーション

従来製品等の改良・改善を進めていくこと

破壊的イノベーション

既存事業の秩序を破壊し、業界構造を劇的に変化させること

従来、日本は持続的イノベーションを得意としていました。日本の「カイゼン」の力を活かして、製品の改善に投資をし、他社の先んじて市場に製品を投入するという事を行っていました。

覚えている方も多いかと思いますが、2000年代にはいわゆるガラケーは各日本メーカーが開発競争を行っていました。着信音では、8和音を出す会社がでれば、次の期では他社が16和音になっていたり、音声録音ができる会社がでればTVがみれる会社が現れるというイタチごっこのようなことが起きていました。そして登場したのが2008年のiPhoneです。製品自体の機能は、当時のガラケーの方が上をいっていたかもしれません。しかし、その洗練されたデザインと操作性(UI)の高さから、一気にガラケーの市場を駆逐してしまいました。

日本企業の多くは、顧客主義をモットーに、改善に努めていますが、その改善が新たな発想を阻害し、破壊的イノベーションに市場を席捲されてしまうというジレンマが発生する状態を生み出してしまいます。これがイノベーションのジレンマです。

両利きの経営

企業の構造も理由のひとつです。

イノベーションのジレンマが起こるような決裁基準になっていたり、資源の使い方を新規領域に振り分けられなかったり、新規事業を開始するスキームが用意されていなかったりといった例が挙げられます。

これを解決する考えに「両利きの経営」があります。

チャールズ・オライリーとマイケル・タッシュマンが提唱した、イノベーションを起こすために企業が2つの方向性を同時に進める経営のことです。今、世界の経営戦略として採用が進んでいます。

その2つは当たり前ですが、「既存事業」と「新規事業」となります。両利きの経営の中身は、ざくっといってしまえば既存事業で稼いだお金を、新規事業に流すという単純なものです。2人は既存事業を知の深化と呼び、新規事業を知の探索と呼んでいます。

知の深化は、その名の通りいかに今までの知を深めていくかを追求していきます。具体的な言葉としては「既存事業」「カイゼン」や「効率化」といったものになります。知の深化は、売上げを伸ばしつつ、そこから利益を生み出していくための機能となります。日本企業ではこちらしかない企業が多くなっています。

そして知の探索では、自社や世の中が今までに手掛けていなかった領域を探索していきます。具体的な言葉として「新規事業」「失敗の許容」や「未知への挑戦」といったものになります。知の探索では、新規事業や新規サービスの入り口を探していき、後々成功して知の深化につなげていく機能となります。

両利きの経営でうまくいったケースとして、日本ではAGC、世界ではIBMが有名です。一度調べてみてはいかがでしょうか。

個人のマインドセット

イノベーションを生む発想に大事なのは、顧客が何を本当に求めているかを潜在的・顕在的に考える事です。そのためには、個人のマインドも大切です。

例えば、1900年代のニューヨークでは、車はほとんどなく、馬車がまだまだ走っていました。その後に、1920年にはフォード製のモデルTという車だらけになっていました。そして時代が進み、飛行機や、ロケットが現れました。

これらにそれぞれ言えることはなんでしょうか? 

答えは「移動」です。

人は元来、歩きや走り、泳ぎで「移動」をしてきました。そこにテクノロジーの出現によって、移動について自分の体以外のテコを働かせることができました。しかし、車が現れたことで人は「車」に目がいってしまい、車の改善競争に入っていきます。そこに囚われた人は移動に「車」以外が思い浮かばなくなってきてしまうのです。個々人の頭の中にイメージとして残ってしまい、新たな発想を阻害していきます。それらを打開するためには、顧客が何のためにそれをするのかを考えることが有効です。

移動することに特化するなら、短距離なら自転車の方が小回りがよいといった発想や、バイクをつくるといった発想になるかもしれません。もっと遠くにいきたいということなら、飛行機やロケットという発想も生まれてくるでしょう。

個人の能力アップにできること

前述のクリステンセンは著作「イノベーションのDNA」においてはイノベーターには以下が求められるといっています。

・イノベーターに必要な5つスキル

 ‐関連付けスキル(一見無関係な事象を結び付ける思考)

 ‐質問スキル(問う力・姿勢・意識)

 ‐観察スキル(注意深く見る目・察する五感)

 ‐人脈スキル(多様な背景や考えを持つ人との交流)

 ‐実験スキル(常に新しい経験に挑み新しいアイデアを試す)

これらのスキルを上げていくことが、イノベーションを起こせる人材を作ります。

この中で、今回は関連付けるスキルについて簡単にできることをご紹介します。関連付けスキルとは、一見無関係に思える事象・出来事・疑問・問題・アイデアをうまく結びつける能力です。関連付けスキルは、様々な知識や経験を積めば積むほど向上していきます。また、他の4つの行動スキル(質問・観察・実験・人脈)を利用することで強化されていきます。是非他のスキルも伸ばしていきましょう。

関連付けするスキルは自分や他者のアイデアを結び付ける受粉のような役目となります。関連付けるスキルを上げるためには、喩えや比喩を考えてみるということが有効です。喩えることで物事の間にある類似性を引き出したり、類似性を引き出すことでいつもと違う視点から見る機会になります。

例えば、友人と、お題をひとつあげ、その喩えを言い合うゲームをするのもいいでしょう。

「例:車を動物で例えると?」「例:自分を5レンジャーでいうならどの色?」

こういったお題を考える事自体が、質問スキルの向上になります。朝会や、飲み会の席におこなってみるのも良いでしょう。少子高齢化や、円安といったことが進んでいくと、日本全体が低迷してきます。すでにそう感じてきている方も多くいるのではないでしょうか。個々人でもチームでも、どうすればイノベーションが起こせるのかを、日ごろから考えるクセ付けをしていきましょう。

小さな積み重ねが、体制を作り、スキルを養っていきます。イノベーションを興して、明るい明日を作っていきましょう!

この記事を書いた人

栗林 陽

(株)TOASU DI室リーダー/チーフディレクター 

大学卒業後、大手IT業界、海外経験を経て現会社へ入社。日本の継続的、健康的な成長を願い、企業向け研修の企画、営業に従事。その後、営業だけでなく0からの研修企画、作成が認められ、社内での新規事業のリーダー職を担う。現在は「チーム」へ向けた今までにないサービスを作成中。座右の銘は「少しでも良い社会のために」。本業の傍ら、地域活性にも参画。大学まで続けたサッカーは今でも毎週行っている。

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