
様々な会社で、JOB型や人材の流動化などが叫ばれるようになっています。
日立、富士通、NTTといった大手企業がJOB型への移行を公式に発表して話題となりました。
みなさまの会社でもそのような動きが出てきているかもしれません。
その際に、一緒に言われることとしてリスキリングという言葉も挙げられます。
リスキリングとは、一般的には「新しい職業や、職場内で今までと全く違う業務を行う際に、大幅な変化に適応するために必要なスキルを学ぶこと」といった意味合いで使われています。
今回の記事では、なぜリスキリングが話題となっているのか、そしてリスキリングのためにどういったことが必要なのかを、キャリアという観点とあわせて説明してまいります。
リスキリングが必要な背景
無くなっていく仕事
昔からそうではありますが、同じ仕事が永遠に続くということはほぼありえません。
産業革命時のイギリスにおける労働者たちのラッダイト運動、いわゆる打ちこわし運動は、織物工業地帯の手動織物から、蒸気機関を主動力源とする自動織物になったことで失業した労働者の運動でした。
別の視点では、世界の農業従事者は2000年にはおよそ10億人とされていました。しかし、農業従事者人口は近年、全体的に減少傾向にあり、2019年の人口はおよそ9億人です。
面白いことに、生産量が落ちているわけではありません。生産量が落ちていない理由としては、産業革命時と同様に、技術革新によって農具のスマート化、品種改良、農薬の進歩といったものが挙げられます。
また、仕事が無くなった有名な職種に電話交換手というものがありました。
これは、誰かが電話をかけるときに一度間に入り、相手への回線をつなぐ役割の方々でした。
しかし、電話の普及により人力では交換が難しくなったこと、技術の進歩によって人を介在する必要がなくなったことにより、今は無い仕事となりました。
聞いた話によると、日本では、電電公社が民間になる際にも、交換手の方々等が、ジョブチェンジにむけて研修等を多くおこなっていたようです。
技術革新と仕事
このように技術が革新されていく毎に、今まであった仕事が無くなる、もしくは形を変えていきます。
発明家でありGoogleに所属しているレイ・カーツワイルは自身が掲げた考え方である「収穫加速の法則」において、科学技術の発展は、直線グラフではなく、指数関数的に伸びていくものであるといっています。
その考え方の中で、カーツワイルは2045年にシンギュラリティ、いわゆる「技術的特異点」が起こるといっています。要はAIなどの技術が、人間の能力を上回る時が来るということです。
収穫加速の法則が正しければ、技術革新が早まり、それに伴い今ある仕事もかなりのスピードで無くなっていくかもしれません。
オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が2013年に発表した「雇用の未来」において、アメリカにおける2013年現在の仕事の47%が10~20年後に無くなる可能性があるという衝撃的な内容を発表しました。
これはAIの発展によって、今ある仕事が減っていくというもので、この発表があった際には大きな話題となったのでご存知の方も多いと思います。
しかし、話題とならなかった内容もこの「雇用の未来」に書かれていました。それはオズボーン教授の言葉を借りるのであれば「テクノロジーが人類に新たな雇用機会をもたらす」ということです。
実際に、「What to do when machines do everything」という本の中で、AIができたからこそ生まれる仕事があると言っています。
例えば、散歩・会話の相手、倫理的な調達(ES)責任者、人間と機械の協働責任者などです。「会話の相手」は、今後AIが発展することで人との関りが薄くなる時に、人との交わりを求める人が増えることから生まれるという予想です。
「倫理的な調達責任者」については、AIだとまだまだ倫理観を持っているわけではない、もしくは倫理感を持っていないと思っている人が多い中で、人がその役割を担うことが求められるために、生まれると予想されています。
「人間と機械の協働責任者」については、機械には数字などの正確さに重きを置いた働きをしてもらい、人間は感情や想像力が必要な部分を担当することで、生まれると予想されています。
いずれにせよ、これからも無くなる仕事もあれば、新たに生まれる職業もあるという事です。
その時に、自分がいかに新たなスキルを獲得し、新たな状況に適応できるようになるかがより求められていくでしょう。
それは、新たな職業への転職だけではなく、在籍している会社内においても、社員1人1人にとって必要となっていくことでしょう。
それがリスキリングが求められる背景になります。
リスキリングを考えるうえでのキャリアデザイン
では、実際にリスキリングを考えていく際には何を学んでいけばいいでしょう。
世の中には「好きこそものの上手なれ」という言葉があります。
これは、好きな事は時間もかけるし、うまくなりたいので頑張ることができる。その結果、できるようになっていくといった意味があります。
それは仕事も一緒ではないでしょうか。
しかし、仕事ではなかなか自分がもとめる仕事を常にできるわけではないでしょう。
その際に、自分の中である程度キャリアを歩いていく軸や道筋が見えれば、そしてその道に沿っていれば、新たに身に付けるスキルも好きになっていけるのではないでしょうか。
キャリアを歩いていく際に参考となるキャリア理論が2つあります。
ある意味で対極的な、シャインの「キャリアアンカー」とクランボルツの「計画的偶発性理論」です。
「キャリアアンカー」
こちらはキャリア理論の中では非常に有名です。
組織心理学者のエドガーシャインが提唱した理論です。
キャリアにおいて譲れない価値観や軸となる考え方を表す用語です。
キャリアアンカーが生まれた語源として、ある理想的なキャリアを送っているビジネスパーソンが「波止場についたようだ」といった言葉を残したことから、その波止場に下した錨を模して「キャリアアンカー」と名付けたようです。
誰しも、キャリアを送っていく中で、自分としての価値観や軸ができてきます。
シャインはそれらが10年ほどでつくられていき、そのアンカーを軸にすれば様々なことがあってもピポットして働いていく事ができると言っています。
キャリアアンカーには8つの型があり、診断も可能となっています。
ネットにも多く上がっていますので、是非気になる方は診断も行ってみてはいかがでしょうか?
ただ、前述のとおり今後は移り変わりが早くなってきます。
その中で10年も待っていられないという事も起こってくるかもしれません。
そういった時に参考になるのが、「計画的偶発性理論」です。
「計画的偶発性理論」
心理学者のクランボルツが1999年に提唱した考えとなっています。
これは、クランボルツが成功したビジネスパーソンを調べていった結果、予想に反してほとんどが予期せぬ偶然なターニングポイントによって成功となったことを突き止めました。
既定の考えでは、おそらくある程度、計画をして努力をしていくことが成功へつながるイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、前述のとおり移り変わりが早くなっている世の中において、計画通りに行く事の方がほとんどなくなってくるでしょう。
そういった時にクランボルツの考えは非常に参考になるのではないでしょうか。
クランボルツは計画的偶発性理論の中で3つの骨子があるといっています。
その3つとは下記になります。
計画的偶発性理論の3つの骨子
- キャリアは、予想に反する偶然によって大きく変わること
- 偶然が起きた時に、新たに行動して努力することが必要になること
- 偶然に何かが起きる事を待つだけでなく、自ら掴みにいくこと
以前、サッカーで有名な元日本代表の岡田監督は「サッカーの勝利には運も時にはある。しかし、それはそこまで努力をし続けた人にしか神様はご褒美をくれない」といったことを言っていました。
この骨子は正にそのことを言っており、自らが行動することで、新たな扉が開けていき、結果的に成功へとつながっていくのではないでしょうか。
今後のキャリア
今後キャリアを築いていく際には、自分のよりどころとなる「アンカー」をしっかりと見つけることも大事になってきますが、それ以上に自ら積極的に行動していく事が不可欠になる時代がやってきます。
逆にそうでないとAIという非常に強力な力が我々の仕事にとって代わってしまうかもしれません。
自社内にしろ、そうでないにしろ、自ら動いていく事が身を守ることにつながるのかもしれません。
ある人は「今が人生で一番若い」といっています。
今30歳の人は、20歳だったら。。。と思ったことはないですか?
今50歳の人は30歳だったら。。。と思うことはないですか?
おそらく人生では何度もこの問いをすることになります。
「これからの自分の人生において、今が一番若い!」と思えれば今から行動できるのではないでしょうか。
是非、成功のためにも自ら偶然を起こしていきましょう。
そして、そこで成功するためにも努力してリスキリングしていきましょう!
この記事を書いた人
栗林 陽
(株)TOASU DI室リーダー/チーフディレクター
大学卒業後、大手IT業界、海外経験を経て現会社へ入社。日本の継続的、健康的な成長を願い、企業向け研修の企画、営業に従事。その後、営業だけでなく0からの研修企画、作成が認められ、社内での新規事業のリーダー職を担う。現在は「チーム」へ向けた今までにないサービスを作成中。座右の銘は「少しでも良い社会のために」。本業の傍ら、地域活性にも参画。大学まで続けたサッカーは今でも毎週行っている。