
目次
- デザインシンキングの概要
- デザインシンキングと他の思考法との相違点
- アート思考との相違点
- ロジカルシンキングとの相違点
- クリティカルシンキングとの相違点
- デザインシンキングがビジネスで活用される理由
- DX推進の観点
- 顧客満足度の向上
- イノベーションの促進
- チームの協働性やコミュニケーションの向上
- デザインシンキングの手順
- デザインシンキングの利点
- 問題解決の質の向上
- チームの協力と創造性の向上
- 迅速な開発サイクルと改善
- デザインシンキングの留意点
- 時間とリソースを要する
- リスクの増大
- 実装の困難さ
- デザインシンキングで活用できるフレームワーク
- ダブルダイヤモンド
- IDEO法
- カンバンメソッド
- 企業における具体的な活用事例
- T企業の新規サービス開発
- 小売業社の店舗改善
- 教育機関のカリキュラム開発
- まとめ
革新的な問題解決手法を求められる昨今、デザインシンキングの価値が注目されています。デザインシンキングは、アイデアの創造、事業の課題克服に効果が高いテクニックとして知られており、企業における多くの分野で導入されています。本記事では、デザインシンキングの手順、利点、留意点、活用できるフレームワーク等について解説し、企業における活用の具体例を紹介します。
デザインシンキングの概要

デザインシンキングは、デザインの手法を事業の課題克服に応用するテクニックです。このテクニックは、顧客中心のアプローチを重視し、顧客のニーズや課題を深く理解することから始まります。その後、問題解決のためのアイデアを出し、プロトタイプを作成し、テストすることで、最適なソリューションを見つけ出します。
デザインシンキングと他の思考法との相違点
アート思考との相違点
アート思考は、アーティストの感性、表現性に焦点を当てる傾向がありますが、デザインシンキングは顧客の欲求、ビジネスの要件に基づき考えます。
ロジカルシンキングとの相違点
ロジカルシンキングは、事実・データに基づき、筋道立てたソリューションを見つけることを重視します。一方、デザインシンキングは洞察・発想を通じて問題を理解し、直感や試行錯誤を経てソリューションを見つけ出します。デザインシンキングは、単なる合理思考だけでなく、感情や顧客体験にも焦点を当てます。
クリティカルシンキングとの相違点
クリティカルシンキングは「それは事実だろうか?」、「そもそもの前提は正しいだろうか?」と分析・批判に基づく思考でソリューションを導きます。一方、デザインシンキングは問題に多角度からアプローチします。顧客視点、環境の要素を考慮に入れ、持続可能なソリューションを提案します。
デザインシンキングがビジネスで活用される理由
なぜデザインシンキングがビジネスで活用されるのでしょうか。その理由を4つの観点から解説します。
DX推進の観点
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がデジタル技術を活用して業務全体の流れや顧客体験を改善することですが、デザインシンキングはDXの実現における重要な役割を果たします。デザインシンキングのテクニックは、顧客中心のアプローチとアジャイルな開発プロセスを促進し、効果的なDXの実現に貢献します。
参考:DX人材とは?その課題と必要な資質 https://toasu-gakken.co.jp/labo/1829/
顧客満足度の向上
デザインシンキングは顧客の欲求を深く理解し、その欲求に応えるためのプロダクト、サービスを開発するテクニックです。顧客の視点に立ったデザイン思考を取り入れることで、顧客満足度を高め、競争力の向上が可能です。
イノベーションの促進
デザインシンキングは従来の思考、枠組みにとらわれず、創造的なソリューションを見つけるためのテクニックです。従来のやり方に縛られず、常識を疑い、新たなアイデア・アプローチを生み出すことで、企業内のイノベーション促進が可能です。
チームの協働性やコミュニケーションの向上
デザインシンキングは異なるバックグラウンドや視点を持つメンバーを集め、共同で問題解決に取り組むことを重視します。これにより、チーム内のコラボレーション、コミュニケーションが活性化し、よりクリエイティブなアイデア・意見が生まれます。
デザインシンキングの手順

デザインシンキングは、問題解決やイノベーションを推進するための手順です。以下に、デザインシンキングの手順を説明します。
①理解(Empathize)
顧客や利害関係者の視点を理解するためにリサーチ、インタビュー等を行います。彼らの欲求、感情を深く理解することで、問題の本質を把握します。
②定義(Define)
理解した情報をもとに、問題を明確に定義します。顧客の欲求や願望を整理し、問題の範囲や目標を明確にします。
③発想(Ideate)
定義した問題に対して、多様なアイデアを発想します。ブレストセッション、アイデアの共有を通じて、可能な解決策やアプローチを探求します。
④プロトタイプ(Prototype)
発想したアイデアの中から、最も有望なものを選び出し、それを具現化するプロトタイプを作成します。プロトタイプは、アイデアを実際の形に近づけることで、テスト・フィードバックのためのツールとなります。
⑤テスト(Test)
プロトタイプを対象顧客、利害関係者に提示し、フィードバックを収集します。彼らの意見、反応を通じて、アイデアとプロトタイプをブラッシュアップします。
デザインシンキングは、この反復サイクルを通じて進行します。フィードバックを収集し、改善を加えて、より良いソリューション創出を目指します。このプロセスは、顧客視点でのアプローチを促進し、革新的アイデアや顧客満足度の向上につながります。
デザインシンキングの利点
問題解決の質の向上
顧客の視点に立って問題を捉えるため、より効果的な解決策を見つけることができます。従来の問題解決手法では、問題の本質や顧客のニーズを見逃すことがありました。しかし、デザインシンキングは顧客への共感を重視し、顧客の意見、感情を深く理解することで、問題の根本的な要因を見極めます。そのため、よりニーズに合ったソリューションを提案することができ、問題解決の質を向上させることができます。
チームの協力と創造性の向上
チーム内のコミュニケーション、共同作業を促進し、発想を引き出す効果があります。従来のビジネス環境では、チームメンバーが自分の役割に固執し、情報、アイデアの共有が不足することがありました。しかし、デザインシンキングでは、異なるバックグラウンド、視点を持つメンバーが協力し、アイデアを発想することが重要です。これにより、多様な視点と知識を取り入れた創造的なアイデアが生まれやすくなるのです。また、メンバー間のコミュニケーションが活発化することで、意見の違いや課題を共有し、より良いソリューションを見つけることができます。
迅速な開発サイクルと改善
プロトタイプを作成し、テストを重視するため、迅速な改善が可能です。従来の開発手法では、アイデア、製品の完成までに長い時間がかかることがありました。しかし、デザインシンキングでは、アイデアを早期に具体化し、顧客のフィードバックを得ることで、迅速な改善が可能です。プロトタイプを作成することで、アイデアやコンセプトを具体的な形にすることができます。顧客のフィードバックを受けながら、アイデアや製品を逐次改善し、顧客の要求により即したソリューションを提供できます。このように速やかな開発サイクルにより、市場の変化や競合の動向に柔軟に対応することができ、より効果的な製品やサービスの提供が可能です。
デザインシンキングの留意点
デザインシンキングは、問題解決やイノベーション促進に寄与すると広く認知されていますが、一方でいくつかの留意点も存在します。
時間とリソースを要する
顧客中心のアプローチを重視していますが、そのためには時間・リソースが必要です。フィールドリサーチ、インタビューなどのデータ収集、多様な視点を取り入れたアイデアの発展、プロトタイプの作成とテスト等、多くの工程を経て、進める必要があります。
リスクの増大
試行錯誤とフィードバックを繰り返すことで最適な打ち手を見つけ出しますが、その過程でリスク増大が懸念されます。早期の段階でプロトタイプを作成し、顧客に対してテストすることは重要ですが、テスト結果が予想外の反応だった場合、改善にはさらなる時間とリソースが必要になります。また、異なるバックグラウンド、専門知識を持つメンバーが参加することで多様な視点を得られますが、コミュニケーション、意思決定の過程での課題も生じる可能性があります。
実装の困難さ
このテクニックは、アイデアを具現化するプロトタイプの作成に重点を置いていますが、その後の実装段階での困難さも考慮しなければなりません。アイデアを形にするだけでなく、実際にビジネス上の課題や制約を考慮しながら実装する必要があります。デザインシンキングのプロトタイプは概念的なものであることが多く、実際の製品やサービスとしての実装にはさらなる労力と技術的な知識が必要です。企業内での実装には、予算や人材の調整、技術的な制約などの問題が生じる可能性があります。また、デザインシンキングの過程で得られたアイデアや解決策が、組織や市場の実情と合致しない場合もあります。このような実装の困難さは、デザインシンキングの成果を活かす上で重要な要素となります。
以上が、デザインシンキングの留意点です。時間とリソースの要求、リスクの増大、実装の困難さという点に留意しながら、デザインシンキングを活用する際には注意が必要です。ただし、これらの留意点は適切な計画やリーダーシップ、チームワークなどで克服することが可能です。上記の利点と留意点をバランス良く考慮し、効果的に活用することが企業のイノベーションと競争力強化に繋がるでしょう。
参考:リーダー育成の社員研修 リーダー育成の社員研修|社員研修・企業研修のトアス (toasu-gakken.co.jp)
デザインシンキングで活用できるフレームワーク

デザインシンキングを実践する際には、以下のようなフレームワークを活用することができます。
ダブルダイヤモンド
問題解決のプロセスを4つのフェーズ(発見、定義、開発、提供)に分け、それぞれのフェーズで具体的なアクティビティを実施するフレームワークです。
①発見フェーズ
ユーザーインタビューや観察、市場調査などを通じて、問題やニーズを明確にします。ツールとしては、ユーザーインタビューのテンプレートや観察シートを使用し、重要な情報を収集します。
②定義フェーズ
洞察を得て問題を整理し、解決すべき重要なポイントを特定します。アクティビティとしては、アフィニティダイアグラムやペルソナ作成などを行います。これにより、洞察を整理し、問題の本質を明らかにすることができます。
③開発フェーズ
アイデアを発想し、プロトタイプを作成します。ブレインストーミングセッションやマインドマップを活用して、多様なアイデアを生み出します。また、プロトタイプ作成では、ペーパープロトタイプやデジタルツールを使用して、アイデアを具現化します。
④提供フェーズ
テストや改善を行いながら、最終的なソリューションを提供します。ユーザーテストやフィードバックセッションを通じて、ユーザーの反応や意見を収集し、改善点を特定します。また、プロトタイプを実際の製品やサービスに進化させるための手法やツールも活用します。
IDEO法
観察、洞察、発想、プロトタイピング、テストの5つのステップから構成されるフレームワークで、ユーザー中心のアプローチを重視します。
①観察フェーズ
ユーザーの行動やニーズを観察し、洞察を得ます。観察ツールとしては、フィールドノートやインタビューシート、写真やビデオの撮影などを活用します。これにより、ユーザーの生活や体験に対する深い理解を得ることができます。
②洞察のフェーズ
観察から得た情報をもとに、ユーザーの意図やニーズを理解し、問題の本質を明らかにします。洞察を得るためのツールとしては、顧客のインタビューや視察レポートの分析、インサイトボードの作成などがあります。これにより、深い理解を基にした問題の再定義やアイデアの発見が可能となります。
③発想フェーズ
多様なアイデアを生み出し、解決策を探求します。ブレインストーミングセッションやクリエイティブなワークショップを活用し、アイデアの共有と発展を促します。また、アイデアスケッチやストーリーボードの作成などのツールを使用して、アイデアを可視化しやすくします。
④プロトタイピングフェーズ
アイデアを具現化するためのプロトタイプを作成します。このフェーズでは、素早く手軽に試作品を作成することが重要です。ペーパープロトタイプやデジタルツールを活用し、ユーザーとの対話やフィードバックを通じてプロトタイプを改善していきます。
テストのフェーズでは、ユーザーに対してプロトタイプを提供し、フィードバックや評価を収集します。ユーザビリティテストやフィールドテストを行い、ユーザーの反応や意見を把握します。これにより、プロトタイプの改善や課題の特定が可能となります。
カンバンメソッド
課題の整理、アイデアの発想、プロトタイピング、テストの4つのステップをカンバン(ボード)上で可視化し、プロセスを管理する手法です。
①カンバンボード
カンバンボードには、ステップごとにカードや付箋を配置し、タスクの進捗状況を管理します。例えば、「課題整理」「アイデア発想」「プロトタイピング」「テスト」といったカラムを作成し、それぞれのステップで行うタスクをカードや付箋として配置します。
②スタンドアップミーティング
カンバンメソッドでは、プロジェクトチームのメンバーが定期的に行うスタンドアップミーティングが重要です。スタンドアップミーティングでは、チームメンバーがカンバンボードの前に集まり、各自の進捗状況や課題、次のアクションを共有します。このミーティングでは、進行中のタスクや優先順位の確認、必要な支援や調整の要件などが話し合われます。スタンドアップミーティングによって、チーム全体の進捗管理やコミュニケーションが円滑化されます。
③プロセス可視化
カンバンメソッドでは、カンバンボードを使ってプロセスを可視化します。各ステップのカラム上にタスクが配置され、その状態が一目で把握できます。これにより、チーム全体での作業の進行状況や課題の特定が容易になります。さらに、プロセスの可視化によって、タスクの優先順位やリソースの割り当てなども効果的に管理することができます。
④サイクルタイムの計測
カンバンメソッドでは、各タスクのサイクルタイム(タスクの開始から完了までの時間)を計測します。これにより、実際の作業時間やボトルネックの特定、プロジェクトの進行予測などが可能となります。サイクルタイムの計測によって、プロジェクトの効率性や品質向上に向けた改善策の検討が行われます。
企業における具体的な活用事例
T企業の新規サービス開発
市場での競争力を高めるために「デザインシンキング」を導入しました。チームは、顧客のニーズを理解するためにインタビューやユーザーテストを行いました。その結果、顧客が抱える課題や要望を把握し、新しいサービスのアイデアを出し合いました。チームは、アイデアをプロトタイプとして具現化し、市場での受け入れを検証しました。最終的に、このIT企業は顧客に対してより効果的なサービスを提供することができました。
小売業社の店舗改善
店舗の顧客エクスペリエンスを向上させるために「デザインシンキング」を導入しました。チームは、顧客の行動や意見を観察し、インサイトを得るためのユーザーリサーチを実施しました。その結果、店内のレイアウトや陳列方法に問題があることが明らかになりました。チームは、アイデアを出し合いながら新しい店内デザインを作成し、プロトタイプとしてテストしました。店舗の改善施策を実施することで、この小売業社は顧客の満足度を向上させ、売上を増やすことができました。
教育機関のカリキュラム開発
より効果的な学習体験を提供するために「デザインシンキング」を取り入れました。チームは、学生や教員との共同作業を通じて学習ニーズや課題を洗い出しました。その後、アイデアを出し合いながら新しいカリキュラムをデザインし、実際の学生環境でテストしました。学生や教員からのフィードバックを収集し、改善を加えながらカリキュラムを進化させました。結果として、この教育機関はより参加型で実践的な学びを提供することができ、学生の学習成果や満足度が向上しました。
まとめ
デザインシンキングを取り入れることで、企業は顧客視点でのアプローチを実現し、競争力を高めることができるでしょう。是非、デザインシンキングを活用して新しい価値を創造し、持続的な成長を実現してください。
この記事を書いた人
三中 信一
大手電気メーカーにて人事・人材開発担当として30年の経験を積む。
社内研修を通して人材育成・組織開発の重要性を実感するとともに、人の成長と企業の発展に貢献したいとの思いから現在に至る。
現在は独立して、様々な業種の企業・団体にリーダーシップ開発、組織活性化、理念浸透などの研修・コンサルティングを提供。