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チームビルディングとは何か

今日、ビジネスの世界では「人的資本経営」の重要性が多く語られるようになり、チームビルディングという言葉が注目を浴びています。
一人ひとりが持ち合わせているタレント力である「個の力」を超えて、「チームの力」として能力を最大限に発揮することができる環境や取り組みのことを、チームビルディングと言います。
チームビルディングを行う3つの目的
経営ビジョンの達成
チームビルディングを行うことで、チームが一つの目的に向かって同じ方向性を示し、チーム力を向上させることで経営ビジョンの達成に近づきます。
例えば、一般の電車には動力車が先頭車両にしか付いていないために、時速60キロ走行が限界値となります。一方、新幹線は全車両が電力車となっているために時速360キロ走行が可能になり、ビジョンの達成により速く近づくことができます。
このように、一部の「個の力」だけに偏ったチームではなく、「チームの力」を育むことは、チームビルディングを行ううえで最も速く経営ビジョンの達成に近づくと言えます。
チームコミュニケーションの充実
チームのメンバー数にも大きく影響を受けるコミュニケーションですが、コミュニケーションが良好であることは、組織が活性化することに直結します。
コミュニケーションとは、人体で言うならば血流そのものと言い換えることができます。血流の循環が良好でなければ、動脈硬化を起こし体調不良となってしまうのは、人体でもチームでも全く同じことです。チームビルディングを行うことで、コミュニケーションの充実を図ることができます。
成長機会の創出
仕事で実施されるプロジェクトを通じて、個人のスキルや能力が向上することは、一人ひとりが成長を体感できる素晴らしい機会の一つです。チームビルディングを行うことで、個人ひとりでは成し遂げられないようなことでも、チームとしてチャレンジすることで達成できるようになります。その能力が培われることは、チームメンバーの一員であるという充実感に繋がり、結果としてチームに対する帰属意識が向上することになります。そして、様々な成功体験を積むことができ、大きな成長機会の創出になります。
このようにチームビルディングとは、大切な組織開発の手法であり、私たちに欠かせない大切な価値観とも言えます。
チームビルディングを行う5つのメリット
チームビルディングを行う際、「相手の気持ちになって考えよう」や「モチベーションを高く保とう」という取り組みはとても大切であり、チームの生産性を向上させる上で欠かせません。
心理的安全性の担保
心理的安全性を担保することで、クリエイティビティを発揮し新しいことに果敢にチャレンジできるようになり、チームが活性化することに大きく貢献します。
そのためには、チーム内から「恐怖を取り除く」ことがとても大切です。組織の中に恐怖が生まれてしまうと、「叱られるから、やめておこう」「どうせやっても無駄だよね」というように、クリエイティビティが遮断されるどころか、報・連・相が疎かになり、隠蔽体質な組織風土となってしまう傾向にあります。心理的安全性を確保し担保することは、チームビルディングを行ううえで欠かせない大切な価値観と言えます。
業務効率や生産性の向上
チームで活動するようになると、タイムマネジメントの観点が欠かせません。つまり、前提としてデッドラインを守ることが必須になってきます。期日を守ることで、社内・社外に対して信頼を勝ち取ることができます。その際、忙しい毎日の中でいかに業務効率を上げ、生産性を向上させるのかを必死に模索することになるため、チームワークを重んじるようになります。それこそがチームビルディングに大きなメリットをもたらします。
社内エンゲージメントの充実
社内のコミュニケーションが充実していると、個人の能力が最大限に発揮できるために、スタッフ一人ひとりが輝いて活動することができるようになります。そうなると、自分の居場所を見出し、仲間や顧客に対してとても充実した関係を構築することができるようになります。
そして、それらはサービスの質に直結するため、結果としてさらに質が上がり、顧客も喜び、自分自身も充実したポジティブな輪を連鎖することができるようになります。
離職防止
当然の如く、チームビルディングが出来ていれば離職の防止にも大きく貢献します。なぜなら、社内エンゲージメントが向上し、生き生きと仕事に取り組むことができることで、成長機会が創出できるからです。
同じ目標を持ったチームメンバーと仕事を進めることで、より一層スピード感を持って成長を体感できるようになります。チームメンバーの存在は、働き続けたいと思える大きな根拠となりえます。
企業ブランディング
ブランディングというと、つい外部に向けたアウターブランディング(H P、S N S等)をイメージしがちですが、インナーブランディングもとても大切です。どれだけアウターが綺麗でも、インナーがグチャグチャだと顧客や採用応募者はそれらを見抜きます。ここで大事なのは、まずはインナーブランディングのステップ1として「チームビルディング」をしっかり整えることであり、結果として企業側の採用活動にも素晴らしい効果をもたらすなど、様々な場面でシナジー効果を生むことになります。
チームビルディングに欠かせない「3つの化」
弊社では、タックマンモデルをベースとしたマネジメントを用いており、一人ひとりの役割を明確にし、メンバー間でのスキルや経験・価値観を共有、互いに尊重しながらも意見の対立を恐れない環境構築こそが重要だと考えています。
チームの段階を示したタックマンモデルにおいて、混乱期が非常に重要となります。タックマンモデルの説明は既出の記事をご参考ください。
(参考:組織とチームの違いhttps://toasu-gakken.co.jp/labo/3128/#heading2)
混乱期は対応の仕方が難しいのですが、参考となる「3つの化」をご紹介します。
①みえる化
みえる化の第一歩は、まず現状を把握しその内容を可視化することから始める必要がある

まず、「みえる化」です。
どの業界でも人手不足が顕著になってきている中で、日常的に「忙しい」日々を過ごすことも少なくありません。その際、ただ「忙しい」として日々を過ごすのではなく、「8時間勤務のうちどの時間帯が忙しいのか」あるいは「月内でどの時期が忙しいのか」を把握する必要があります。それこそがみえる化であり、結果としてタイムマネジメントにも大きく影響することになります。
また、例えば経費削減(コストカット)をしようという取り組みをチームで実施するとします。その際、闇雲に目についた項目から経費削減に取り組むのではなく、最も販管費の中で割合を占めるものから削減に取り組むことが大切です。
例えば、今まではコピー用紙をひと束600円で購入していたとします。しかし、隣町まで買いに行けば、550円で購入できるとします。しかし、隣町までわざわざ買いに行くことで余計なコストがかかる場合があります。ガソリン代や人件費だけでなく、買いに行くという時間が何よりもコストになってしまいます。(決して50円の差額を軽視しているわけではなく、みえる化をした上での重要度×緊急度を考えた際の優先順位の話であることをご理解ください。)
その際、販管費の中から何を優先的にカットしていけば、大幅な改善が見込めるのかを「みえる化」しておく必要性があります。
また、一方で「経費削減した場合、誰かの業務にマイナスな影響はないか」を慎重に検討する必要があります。例えば、光熱費が前年度と比べ高額になっていることが判明したとします。しかし、コストカットのためにエアコンの稼動を節約し、光熱費を抑えることができたとしても、そこで働く方々の安全性が担保出来ない場合や、生産性やモチベーション、エンゲージメントが低下しては本末転倒と言えます。その際、誰かの業務に影響はないか、クライアントに不利益は生じないか、をチームで慎重に検討する必要があると言えます。
残念なことに、「みえる化」できていないチームは、ただ単に「忙しい」という言葉のオンパレードになり、対策が立てられない傾向にあると言えます。それでは、問題が発見できず、問題解決まで辿り着くことは難しくなるでしょう。
「みえる化」を実施することは、タイムマネジメントに直結し、業務効率や生産性の向上に大きく寄与できる、チームビルディングに欠かせない大切な取り組みと言えます。
➁劣後順位化
劣後順位化とは、やらなくて良いことの順番を決めること

次に、劣後順位化です。
この「劣後順位化」という言葉は、あまり聞き慣れない言葉かもしれません。簡潔に述べるのであれば、優先順位化の対義語であり「やらないことを決める」という工程です。
前述の通り、社内でクリエイティビティを発揮することで新たな成長曲線を描くことは急務と述べました。しかし一方で、社内でクリエイティビティが発揮されればされるほど、やるべき事案が増えていきます。そこで重要になるのが、「やらないことを決める」なのです。まさに劣後順位化をするということです。
例えば、元々やっていた仕事が100だったとします。そして、クリエイティビティをもってして、新しいことをどんどんやるので+20されます。そうなると、業務量が120になってしまうためにチームが疲弊してしまいます。
そうなる前に、私たちは、まず100の仕事から無駄を省き、やならいことを決め-20します。今ある仕事を80にした後に、新しい20の仕事を増やしていくのです。
この劣後順位化ができていないと、「モチベーションを上げて頑張ろう!」とチームを鼓舞したところで、皆が疲弊してしまい、チームビルディングどころではありません。
そして、これらはもちろん業務を「みえる化」した上で不必要な業務を省き、「劣後順位化」して生産性を向上させることに意図があると言えます。

③共通言語化
共通言語化とは、誰にでもわかるように行動などを言語化すること

そして、最後に共通言語化です。
あなたも、会社内で「モチベーションを上げて頑張ろう!」「責任感を持って仕事に取り組もう!」などという言葉が飛び交っている場に立ち会ったことはありませんか?このように、チーム一丸となって成果をあげるように取り組む姿勢はとても大切です。
しかし、ここで大切なのは、「何がどうなったらモチベーションが上がったと定義するのか」という点です。もしくは、「何がどうなったら責任感を持って仕事ができていると定義するのか」ということです。この共通認識が曖昧で定義化できていないと、ミスコミュニケーションの起因となります。
ただでさえ、クリエイティビティを発揮し、新しいことをどんどん実施していくことが求められる中で、曖昧な表現や感覚値の中でコミュニケーションが行われてしまうと、再現性に欠けることになります。
再現性がない状態とは、「Aさんは営業成績が良いけれど、Bさんは営業成績が悪い。Aさんにできるのだから、Bさんにも出来るはず!Bさんには、もっとモチベーションを上げて頑張ってもらおう!」という指導になってきます。しかし、それではBさんはいつまで経っても営業成績を上げることができません。なぜなら、モチベーションという曖昧な言葉を用いて感覚値で指導が行われるからです。
つまり、ここで大切なのは、どのようにしてAさんは営業成績を上げているのかを、行動を分解し、言語化する必要があります。どのような言動があってAさんは成果を上げているのか、を分析する必要があると言えるでしょう。
例えば、元気よく挨拶をしましょう、というミッションがあったとします。その際、元気よく挨拶をするということは
①必ず相手の目を見て
②ニコニコしながら
③大きな声で
④「こんにちは」と言う
というように、行動に分解をして、言語化し、定義化することができます。これらの工程を無視した上でチームビルディングをしようとしても、残念ながらミスコミュニケーションに繋がってしまいます。
・相手の立場になって考えよう
・しっかりと理解しよう
・本質を見極めよう
など、よくビジネスの中ではこういった言葉が使われますが、やはり「どのようになったら、相手の立場になって考えられているのか」ということを共通認識として、言語化しておく必要性があります。
このように、共通言語化をするということは、誰でも同じような言動ができ、成果に対して再現性を担保することに直結します。曖昧な言葉を避け、共通言語化をするために日頃の行動を分解することでミスコミュニケーションを防ぎ、チームビルディングに大きく貢献してくれます。
さいごに
チームビルディングを行う際、「相手の気持ちになって考えよう」や「心理的安全性を担保しよう」という言葉を発するだけで、簡単にチームビルディングが出来るわけではありません。チームビルディングを構築するためには苦労も時間もかかりますが、崩れるのは一瞬です。そのために、個人個人の感覚や経験だけに頼るのではなく、「チームの仕組み」を構築していく必要性があると言えます。
言うまでもなく、チーム力があるのか無いのかは仕事をするうえでとても重要な指標です。一人ひとりがチームの一員であることを自覚し、「個の力」×「チームの力」の両輪を豊かに育んでいってください。
この記事を書いた人
外川 大由(Hiroyoshi Togawa)
大手経営コンサルティング会社を経て、オランダにてコンサルティング会社を設立。
東京大学大学院工学系、帝京大学冲永総合研究所での研究員のキャリアを持ち、医療コミュニケーションの研究を専門的に行う。
「人の才能が開花する瞬間に立ち会う」をミッションに掲げ、医療機関のコンサルティング・研修は年間250回を超える。
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