
日本だけでなく、世界中の企業にとって永遠の課題とも言える人材育成。
AIの発達など人に頼らない仕組み作りも加速してきた現代ですが、まだまだ人が活躍する場面は多くあると言えます。
企業では、新入社員・中堅・ベテランといった入社時期ごとに行う研修、異動や昇格による仕事内容の変化に伴う研修、専門知識を得るための研修など、様々な場面で研修を活用した人材育成が行われてきました。
こういった企業研修には、その時々のトレンドが存在し、その時代のビジネスシーンで求められているものが見えてくるのではないでしょうか。今回は、企業研修のトレンドについて解説していきます
目次
企業研修とは
社会人として働いていく中で、多くの人が経験する企業研修。
新卒で働き始めるときには、社会人としての心構えなどを学ぶ「新入社員研修」、管理職に昇進したときには「新任管理職研修」など、その時々の状況によって会社が学ぶ機会を与えてくれることがあります。
社内の先輩社員による研修や、社外から講師の先生を招いて行われるものも含めて、企業が自社の社員のために行う研修の全てが企業研修です。
よく社内で行われるものが企業研修と捉える方がいますが、社外に赴いて行われる研修も企業として申し込んでいれば企業研修となります。
企業研修の目的
企業研修を行うときに、人材開発と組織開発という二つに大別することができると言われています。
これは企業研修の目的とも言うべき、社員の成長と会社の成長を図れることが大きな理由でしょう。
人材開発とは、スキルアップ研修や新入社員研修など個人の成長につながる内容のものです。もちろん社員個人の成長は会社の成長にもつながるので、企業研修の目的にも合致した内容と言えます。
一方の組織開発とは、組織全体の底上げを行う研修を指し、部署を束ねる上長のマネジメント力アップや組織でのグループワークなど方法は多岐に渡ります。
企業研修では、個と組織の成長を大きな目的として、自社の課題や伸ばしたい部分を研修として社員の方々に提供しているとも言えるのではないでしょうか。

産労総合研究所
トレンドとは
ここまで企業研修の定義について解説してきましたが、もう一つ今回のテーマとなっている「トレンド」という言葉は聞き馴染みのある方も多いのではないでしょうか。
最近ではネットやSNS等でよく用いられることが耳馴染みのある要因だと思いますが、使われる場面によって意味合いが変わる言葉でもあります。
例えばネットで使われる「トレンドワード」や「トレンド入り」といった言葉は人気を表したものです。
一方で経済界でもよく使われる言葉となっており、その意味合いはSNSで使われるような人気を示すものではなく、傾向を表しています。
例えば、「上昇トレンド」「下降トレンド」「トレンドライン」など、株価の動向を追っている方には耳馴染みのある言葉でしょう。
このように、場面によって意味合いが変わってくる言葉でもありますが、トレンドの元々の意味は、傾向・趨勢。流行や変動の動向。最新流行となっています。今回は「トレンド=流行」と定義して、企業研修の流行について解説していきます。
人材育成のトレンド
企業研修のトレンドを解説していく上で、その目的となる人材開発と組織開発の基とも言える人材育成のこれまでの変遷を簡単にご紹介していきます。
日本の人材育成は戦後にトレンドとなったOJTから始まり、1980年頃にはグローバル人材育成が流行るなど、その時々によって変動を見せているのが伺えます。
途中、1960年頃に組織開発がアメリカから流れてきたことにより、注目を集めましたが普及するまでには至りませんでした。
近年では、1990年代前半のバブル崩壊に伴いリストラや成果主義が導入されたことにより、人材育成が疎かになる傾向が強まったと言われています。
結果として育成されていないマネジメント層が多く出ることになり、社会的にも大きな懸念点となりました。バブル崩壊から10年ほど経った2000年代には、部下育成の重要性やその方法が議論されるところとなり、傾聴や双方向の関係性を築くコーチングの技術に注目が集まっています。
コーチングについて詳しく知りたい方は、別記事「【コーチングのやり方】これだけは抑えておきたい情報」をご覧ください。

新たなトレンド
近年では、各企業のDX化や、伊藤レポートに端を発した人的資本経営、企業の戦略のスタンダードになってきている両利きの経営といった企業の方向が変わってきています。
そんなこともあり、人材育成自体にも流れが変わってきています。
①人材育成の個別最適化
②研修の長期化
③組織に向けての研修
上記の3つです。
①人材育成の個別最適化
これは複雑化する世の中において、専門性も広がってきています。JOB型の雇用もそれを促進していくでしょう。
また、AIの発達によって個人の学びの上達についてもそれぞれに適した方法を提供できるようになってきました。
そういったこともあり、従来は会社が一元的に研修という形でスキルアップの場を提供してきていたものが、動画学習や、イーラーニング、オープン研修といった形へ徐々に移行してきています。
②研修の長期化
①と反する部分もありますが、会社として本当に学んでほしい事については1回の研修で済ませるのではなく、長期で「できる」ところまで持って行くということも最近の大きなトレンドです。
動きの早いビジネスの世界では、若手であっても現場では戦力として活躍することが今まで以上に求められています。
そこで、例えば若手に必須なものとして「問題発見・解決力」を企業側が挙げた場合、それを1年かけて研修と現場での実践を何度も繰り返して「できる」ようになってもらうということです。
長期の研修としては、最近ではスキルだけではなく、会社としての在り方といったところまで踏み込んで、会社の文化醸成を行うといった企業も増えてきています。
③組織に向けての研修
②の最後にも書きましたが、企業という組織の力を上げていくような研修も大きなトレンドです。
①のように個別の社員が力を上げたとしても、組織の力が上がっていなければ1+1が1.5になってしまうということはざらにあります。
スポーツの世界で、例えばサッカーや野球のチームでも選手にお金をかけているチームが優勝するわけではないことをみれば一目瞭然かと思います。
そこで企業は、組織開発や、企業の文化を醸成するようなワークショップ、社長のメッセージ動画を用意するといったことをはじめています。
企業研修のトレンド
人材育成のトレンドに合わせるように企業研修のトレンドも変動してきました。
その中にはどの時代も変わらず需要の高いものもありますが、時代にマッチしたものが流行する傾向にあります。
ここからは具体的に、今どんな研修がトレンドとなっているのか、研修会社で実際にお問い合わせが増えてきている研修をいくつかご紹介します。
ロジカルコミュニケーション研修
ビジネスシーンにおいて重要視されているロジカルシンキング(論理的思考)をコミュニケーションの場面で活用できる考え方を習得する研修です。
こちらは最近もトレンドと言えますが、少し前から常にニーズの多い研修となっています。
ロジカルシンキングについて知りたい方は、別記事「【入門編】ロジカルシンキングとは?」をぜひご覧ください。
プログラムフロー例
・オリエンテーション
論理的思考やコミュニケーションについての知識を深める
↓
・インプット力アップ
演習を通して、質問方法や話の聞き方などを学ぶ
↓
・アウトプット力アップ
相手への伝え方などを演習形式で学ぶ
↓
・論理力アップ
さらに深い論理的思考とコミュニケーションについての座学
↓
・ケーススタディ
インスピレーションポート
他社との合同形式で実際の地域問題等に取り組み、価値を創造する研修です。
この研修がトレンドとなっている背景として、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代と呼ばれる現代の日々変わっていくニーズを捕まえられる人材の重要性が高まっていることがあるでしょう。
プログラムフロー例
・オリエンテーション
研修の流れの説明や各社紹介
課題として取り組む地域問題発表
↓
・グループワーク①
課題地域でのインタビューなど情報収集
↓
・グループワーク②
現地でのさらなる情報収集
問題提起・ニーズの特定
↓
・アウトプット
アイデア出し、検証
↓
・プレゼンテーション
OJTリーダー研修
OJTとはOn-The-Job-Trainingの略で、実際に働きながら知識や技術を身につける育成方法として多くの職場で用いられています。
OJT研修は、社内で新入社員に対し先輩社員がOJT担当となって行うことが一般的ですが、担当者が育成について学ぶ機会がない事が問題となっているケースは少なくありません。
そのため常に人気の研修ではありますが、最近ではオンラインの需要が高まっており、オンラインでどのように育成を行なっていくのかという声も合わせてトレンドとなっています。
OJT研修について詳しく知りたい方は、別記事「OJT研修とは?目的と進め方・取り組み方」をご覧ください。
プログラムフロー例
・オリエンテーション
研修の概要説明
参加者紹介
↓
・今、なぜOJTが重要なのか
企業目線での人材育成の必要性やOJTの位置付けなどを学ぶ
↓
・グループワーク
育成場の悩みなどをグループで討論
↓
・OJTセルフチェック
チェック項目に沿って、現状の個人別分析
チェック項目の解説
↓
・ケーススタディ
後輩指導のケーススタディをグループで行う
グループ結果発表・解説
↓
・コミュニケーションについて
コーチングを学ぶ
↓
・面接演習
面接のロールプレイング
↓
・指導育成計画作成
それぞれが個別で部下や後輩の育成計画を作成
マネジメント研修
その名の通り、部署などをまとめるマネジメント層向けの研修です。
職場の活性化やリーダーシップの発揮など、マネジメント力について学び実践につなげていくことを目的とします。
こちらも昨今情勢を踏まえ、オンラインで部署をまとめていく方法が注目されており、トレンドと言えるでしょう。
マネジメント力については、別記事「マネジメント力を強化するには?ポイントと必要な能力」で詳しく解説しています。合わせてぜひご覧ください。
プログラムフロー例
・オリエンテーション
研修の概要と考え方
↓
・役割の認識
マネジメント層として何を求められているのかセルフチェック
企業環境変化の認識
↓
・マネジメント能力チェック
セルフチェックとグループ内で相互発表
↓
・役割と責任について
6つのポイント解説
↓
・問題発見・解決能力について
問題の捉え方と解決方法
フレームワークを学ぶ
↓
・ケーススタディ①
問題発見についてのケーススタディ
↓
・スタイル分析
マネジメントスタイルの自己分析
↓
・リーダーシップについて
リーダーシップについて学び、個人とグループそれぞれで研究
↓
・ケーススタディ②
リーダーシップについての研究結果発表
↓
・目標設定の重要性について
方針管理と目標設定のポイント
マネジメントサイクルと評価
他社合同形式システム提案力強化研修
SE向けの提案力向上研修で、以前から需要の高い研修です。
顧客の信頼を勝ち得るシステム企画提案を目標に学ぶ場となります。
オンライン商談が増えており、改めて提案力の強化を希望する企業が増えていることが、近年トレンドとなっている要因ではないでしょうか。
プログラムフロー例
・オリエンテーション
研修の概要と自己紹介
↓
・演習準備
提案のステップ解説とテーマの提示
↓
・グループワーク
仮想顧客への提案に向けた情報収集
戦略ミーティング
↓
・問題発見と解決
問題解決と戦略提案それぞれの3つのポイント解説
↓
・提案書作成について
提案書の構成と購買心理について学ぶ
↓
・コストパフォーマンスについて
経営におけるコスト意識を学ぶ
↓
・プレゼンテーションについて
プレゼンテーションの基礎知識と進め方
↓
・提案書作成
プレゼンテーションに向けた提案書作成
↓
・プレゼンテーション
仮想顧客に向けたプレゼンテーション実施
↓
・結果講評
結果発表とコメント
まとめ
企業研修のトレンドを見ていくと、「どのような人材が今求められているのか」ということも少し見えてくるかもしれません。
現代においては、社会情勢も合わさりオンラインでのマネジメントや商談がこれまで以上に重要性を増していることがわかり、ここで結果を出せる人材は多くの企業から重宝されることでしょう。
足を使っての会社訪問や接待などもなくなったわけではありませんが、これからはオンラインのみでコンペということも増えてくるのではないでしょうか。
各企業そう言った状況に強い人材の育成を意識していおり、社外のエキスパートからノウハウを学ぶ機会を探しているとも考えられます。
また新たな時代へいつ突入するのか、企業研修のトレンドを追うことで見えてくることもあるかもしれません。