CASE STUDY
事例紹介
- 会社名
- 学研ホールディングス ITセキュリティ室/人事戦略室
学研グループでは「学研仕事塾」と称して、自律型人材の育成を推進しており、教育事業会社を多く有する学研グループならではのリスキリングプログラムを展開しています。テーマの一つであるDX推進で、TOASUの生成AI講座が採用されました。2025年3月、各事業会社からAIアンバサダーが選出され、TOASUの生成AI講座を受講し、得た知識とスキルを活用した取り組みが5か月間行われ、最終成果発表が2025年8月に開催されました。本稿では、最終審査に進んだ4社の取り組みを中心に、その成果をお伝えします。
AIアンバサダーたちの活動
各事業会社から、総勢36名のAIアンバサダーが選出されました。参加者の中には、生成AIの活用経験がほとんどない方も含まれていました。
まず、アンバサダーは2025年3月よりTOASUの生成AI講座を受講して基礎知識とスキルを習得しました。その後、5月からは「業務効率化と生産性向上」をテーマに、自組織の課題をAIで解決するプロジェクトを開始しました。
プロジェクトの成果報告後、厳正な一次審査が行われ、特に優れた4社の取り組みが選出されました。この4社による成果発表会が8月に開催され、審査員による最終審査の結果、優勝者が決定いたしました。
本レポートでは、最終審査に進んだ4社の取り組みをご紹介します。
【株式会社スマイルハートフル】VBA構築によるRPAの代替と記録業務の自動化で、大幅な業務効率化を実現
株式会社学研スマイルハートフルの高橋尚美さんより、同社のオフィスサービス部で推進されたAI活用の取り組みが発表されました。約100名の障がいのある社員が在籍する特例子会社として、グループ各社から月に200件以上の業務を受託する同社にとって、業務の進捗管理は極めて重要です。今回は、その中で浮上した2つの課題解決にAIが活用されました。
一つ目の取り組みは、VBA構築によるRPAの代替です。従来、進捗管理に利用していたRPAは、コスト上昇や仕様変更に弱いという柔軟性の低さが課題でした。そこで、コスト削減と効率化の両立を目指し、高橋さんはVBA経験者と基礎知識を持つ障がい者社員2名と共にチームを結成。主にChatGPTを活用した自社内でのVBA構築に挑戦しました。
2025年5月のプロジェクト開始後、チームは週に3〜6時間の作業時間を確保し、2週間に一度のミーティングで進捗を確認しながら開発を進めました。ChatGPTと対話しながら試行錯誤を重ねた結果、RPA業務の約90%をVBAへ移行させることに成功。「7月末までに50%」というKPIを大幅に上回る成果を上げ、RPAの契約コストも大幅な削減が見込まれます。
生成AIがコードの土台を作ることで開発時間が短縮されただけでなく、VBA初心者でも挑戦しやすい環境が生まれました。
チームメンバーからは質問の仕方でAIの回答が大きく左右されることの気付きが得られたとの声もありました。「教える」より「共に考える」スタイルで取り組んだことが、学びと自信につながり、この取り組みは単なるツール開発に留まらない価値を生み出しました。
二つ目の取り組みは、面談記録の効率化です。同社では面談機会が頻繁にありますが、記録作成に一人あたり30分を要し、業務圧迫や記録の属人化が課題でした。この課題に対し、AI文字起こしサービス「Notta」で音声をテキスト化し、専用のテンプレートに要点をまとめる手法を導入。その結果、記録作業は従来の30分から10分へと大幅に短縮され、内容の標準化も実現しました。
【株式会社シスケア】「AI使ったことない」が45%→0%へ!全社を巻き込んだ意識改革
自社内でのAI活用が十分に進んでいないという課題意識から、小峰賢一さんと大竹由希子さんが社内推進役として全社を巻き込んだ生成AIの活用推進に取り組みました。
まず現状を正確に把握するため、全スタッフを対象にアンケートを実施したところ、全体の45%がAIを「全く利用したことがない」状況でした。その背景には「使い方がわからない」「出力結果が信頼できない」といった障壁がある一方、「書類作成」や「建築設計における法令チェック」など、専門的で重要な業務にこそAIを活用したいという潜在的なニーズが高いことも明らかになりました。この結果を受け、AI活用の推進が事業全体の推進に大きく寄与すると確信し、具体的な3つの施策を実行しました。
施策の一つ目は、全社員の知識とスキルを底上げするための「社内AI活用研修」です。二つ目には、AI利用への心理的な抵抗感をなくすため、「AI時短チャレンジ2week」と題した参加型企画を実施。「会議メモを要約してみよう」といった遊び心のあるテーマも用意したことで参加者が大幅に増え、楽しみながらAIに触れる機会を創出しました。そして最後に、これらの取り組みでAIへの不安を払拭した上で、有志メンバーによるトライアルを経て、建設業に特化した生成AI「光(ひかり)」を本格導入しました。専門的な質問に根拠を明示して回答する機能が好評で、経験の浅い若手の建築士でも安心して高度な調査ができると評価されています。
これらの施策を経て、再度アンケートを行った結果、「週に一度もAIを使わない人」は0%となり、全社的な利用が定着しました。多くのスタッフが時間短縮効果を実感する一方で、「プロンプトスキルの向上が必要」という新たな課題も見えています。今後は、AIツールの継続的な情報収集と導入、社内ナレッジベースの構築、そして更なるAIリテラシーの向上に取り組み、業務効率化を推進していくという力強い目標が掲げられました。
【株式会社学研メソッド】問い合わせ対応300件/月をAIで自動化。現場主導で育てるチャットボット
株式会社学研メソッドの堀秀明さんより、生成AIを活用した社内QA自動化プロジェクトについて発表がありました。
まず現状を正確に把握するため、全スタッフを対象にアンケートを実施したところ、全体の45%同社では新決済システムの導入後、操作やトラブルに関する問い合わせが月300件に急増しました。これにより、特定の詳しい社員に業務負担が集中し、対応品質のばらつきや業務効率の低下といった課題が顕在化していました。この状況を解決するため、生成AIを活用して問い合わせ対応の属人化解消と効率化を目指すプロジェクトが立ち上げられました。
プロジェクトでは、まずβ版のチャットボットを構築。その改善プロセスは、現場担当者が実際の質問を入力して得られた回答をQ&A形式で記録し、不正確な回答はその都度修正して再度AIに学習させる、というサイクルを繰り返すものでした。回答精度の向上にはこの地道な改善を根気よく続ける必要がありますが、6月に取り組みを開始してからわずか3か月で約100件分の問い合わせ対応を自動化し、着実に業務効率化を実現しました。
この取り組みを通じて、現場でのAI実装には「人の知見 × AI」の組み合わせが不可欠であるという重要な気付きを得たとのことです。今後は、この学びを基に、回答の正確性を担保する確認・承認フローや、AIの特性を踏まえた活用ガイドラインを整備し、さらなる精度向上を目指します。将来的には、この仕組みをグループ内の他事業会社へ横展開することも視野に入れ、取り組みを継続していくという展望が語られました。
【株式会社Gakken】2時間超の作業がわずか5分に!AIによるプレスリリースの自動作成と品質の標準化
株式会社Gakkenの山田崇博さんからは、AIによるプレスリリースの自動作成に関する取り組みが発表されました。
まず現状を正確に把握するため、全スタッフを対象にアンケートを実施したところ、全体の45%山田さんが着目したのは、定型業務であるプレスリリースの作成です。同社が運営するオウンドメディアでは、PR TIMES等を通じた対外広報の重要性が増す一方、記事作成のリソース不足が課題となっていました。また、執筆者が固定されていないため、品質のばらつきや執筆時間の確保も問題でした。そこで、AIを用いて誰でも一定の品質を保ったリリース原稿を作成できる仕組みの構築を目指しました。
開発には、ノーコードAIアプリケーション開発ツール「Dify」を使用。複数の参考リリースをAIに学習させ、自然な文章が出力されるようプロンプトの調整を繰り返しました。さらに、プレスリリースに求められる適切なトーン&マナー、構成、段落の長さを設定し、表現を前向きなものに統一したり、日付や時間などの表記揺れをなくしたりと、様々な工夫を凝らしました。これにより、執筆者のスキルに依存せず、常に一定品質の草案を生成できる仕組みが完成しました。
その結果、手作業で2〜3時間かかっていた執筆作業は、わずか5〜10分へと劇的に短縮されました。現在は社内での実装段階ですが、将来的にはグループ全体で利用できるツールへと展開することを目指し、継続的に改善に取り組んでいくとのことです。
AIと共に踏み出す、新たな成長への一歩
審査員による厳正な審査の結果、優勝は株式会社Gakkenの山田崇博さんに決定しました。山田さんの取り組みは、その将来性と、グループ内の他事業会社へ横展開できる可能性が高く評価されました。
受賞に際し、山田さんは「『誰でも使えること』と『業務効率化』を意識し、AIが納得のいくプレスリリースを作成できるまで根気よく試行錯誤しました。その点が評価され、大変嬉しいです」と喜びを語りました。
今回のグループ横断での生成AI活用プロジェクトは、学研グループ全体のAI活用を大きく前進させるものとなりました。各社のAIアンバサダーたちは、自社でどのような業務改善ができるかを真剣に考え、時にはグループ他社と意見交換をしながら積極的に取り組みました。この活動を通じ、グループ内のAI活用は個別の「点」の取り組みから、組織的な「面」の活動へと広がる大きな可能性が示されました。
一見すると、自社の業務に合わせた小さな実践の積み重ねに見えるかもしれません。しかし、それらがグループ全体の業務レベルの底上げにつながっていきます。AIの活用は、これまで人の知見や経験に依存していた業務を、「人にしかできない価値ある仕事」と「AIに任せるべき定型作業」とに切り分けることを可能にします。これにより、社員はより創造性や専門性が求められる業務に集中できるようになり、結果としてお客様へ提供するサービスの質も一層高まっていくのです。
今回の取り組みをきっかけに各社が新たな一歩を踏み出したことは、グループ全体にとって大きな前進であり、今後の成長に不可欠なプロセスであったと確信しています。
※記事内容は取材当時の情報に基づくものです