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研修コラム

グローバル・リーダーとは? – 『人材の時代』におけるグローバル人材戦略-

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グローバル・リーダーとは?

グローバル・リーダーとは何か?

『グローバリゼーション(グローバル化)』という言葉を、当たり前のように耳にするようになった時代。企業は、単に国境を越え、海を越えて活動の場を広げていくだけではなく、コロナ禍を経て、テレワークの推進により新たな活動の仕方(働き方)や人材の登用さえも見出すようになりました。

 一方で、従来自国の市場で成功を収めてきた企業は、国際的な競争相手と自国の市場のパイを取り合うことになり、海外への進出・拡大が思わしくない企業は、企業の存続という観点から新たな課題を突き付けられることになりました。

 さらに、こうした地域間、もしくはグローバルに経済圏の統合化が進む一方で、急激な情報化や技術革新がもたらす組織間・グローバルなレベルにおける依存性がさらに強まってきています。

そこで、このような環境下で成功を収めながら存続していくために、企業は異文化間を股にかけてグローバルなスケールで発揮できるリーダー、すなわち『グローバル・リーダー』の重要性を認識し、事業戦略の中に落とし込む必要性が一層強まってきています。

『人材の時代』におけるリーダー開発

いわゆる『人材の時代(Human Age)』において、急速に拡大し、相互依存性を強めているグローバル市場で企業が生産性を高めイノベーションを推進していくためには、そのようなビジョンと戦略を実現し遂行できるグローバル・リーダーを開発し育成することが必要です。そして、その開発と育成に焦点を当てたグローバル人材戦略(タレント・ストラテジー)を構築することが急務課題として掲げられました。

 具体的にリーダーが異文化間を股にかけてビジネスを推進していくには、複雑で飽くなき野心と競争にさらされている環境下で意思決定を行い、文化的差異を理解し、自己のリーダーシップスタイルを状況に合わせて適応させていかなければなりません。

 ただし、ここで誤解してはならないのは、一国において優れた業績を上げた人材にグローバルの案件を任せることが、必ずしも上手くいくとは限らないということです。同様に、実力のある(High-Performing)リーダーを新しい文化圏に晒すことだけでは、能力を発揮できるグローバル・リーダーを育てることにはなりません。

グローバル・リーダーに対する切迫性

少し古いデータになりますが、2011年にIBM社が1500人のCEOに、そしてDDI社が14,320人の人事担当者、ならびにビジネスリーダーを対象に、それぞれ実施した調査があります。それによりますと、多くの企業が企業活動のスピードに対応できる人材がいない、(彼らが有する)リーダーの資質に満足していない、将来のビジネスの需要を満たせる才能のある人材(Bench Strength)が十分でない、と述べています(IBM 2011; Boatman & Wellins 2011)。

 これらの2つの調査から言えることは、グローバル・リーダーシップを伴う状況が切迫しているということです。そして、グローバル・リーダーシップは、リーダーシップの責務と課題が異文化間を跨いでいるという観点から、一国内におけるリーダーシップ(Domestic Leadership)と比較して、より一層複雑なものになっていることも、もう一つの重要な点といえます。

 例えば、倫理的な課題や、チーム形成、異なる見解への対処法など、グローバル・リーダーとして必要な資質や遂行能力を有する人材を十分に有していると言い切れる企業は、調査の結果からほぼ皆無といった状況になっています。

 そして、彼らが欲しているリーダーとは、単に個々人の資質や能力を重視したリーダーシップではなく、他者との関係性を積極的にかつ効果的に構築できるリーダーシップ(Relational Leading)なのです(Michel&Wortham, 2009)。

グローバル・リーダーに求められる行動と性向

「GLOBE」調査結果に基づく6つのグローバル・リーダー行動

1991年にロバート・ハウス氏の主導により「GLOBE(Global Leadership and Organizational Behavior Effectiveness)」研究プロジェクトが発足され、異なる文化圏のリーダー行動を比較調査しました。対象地域は62の文化圏に及び、17,000人のマネージャーと950以上の組織に対してヒアリングが行われました。

 2004年に刊行した書籍、「文化、リーダーシップ、組織(Culture, Leadership, and Organizations: The GLOBE Study of 62 Societies)」は、800頁にも達し、先述の研究プロジェクトの膨大な調査データ・結果が網羅的にまとめられています。

 GLOBEの研究者たちは、最終的にグローバル・リーダーにみられる6つの共通的な行動様式を導き出しています。それぞれのリーダーシップの特徴は下記の通りです。

①カリスマ的リーダーシップ/価値創造型リーダーシップ
②チーム志向型リーダーシップ
③参加型リーダーシップ
④人道的志向型リーダーシップ
⑤自律的リーダーシップ
⑥自己防衛的リーダーシップ

各リーダーシップ行動様式の内容についてはここでは割愛いたしますが、重要な点は、各文化圏・地域によって、どのリーダーシップ行動を重視している、もしくは望ましいと考えているのかが異なっているということです。

参考までに、アングロサクソン系文化圏(北米地域・英語圏)、サハラ砂漠文化圏(アフリカ地域)、そして儒教系文化圏(東アジア地域)を例に、それぞれ重視している、もしくは望ましいと考えている6つのグローバル・リーダーシップ行動を上位から順に並べ、比較検証しますと、その結果は一目瞭然です(図1)。

普遍的に望ましいと考えられるリーダーの特徴

LOBE研究プロジェクトで最も興味深い成果といえば、異なる文化圏を問わず、望ましいと考えられているリーダーの特徴を導き出しリスト化したことです。「効果的なリーダーシップ(Effective Leadership)」を支える特徴として挙げられたのが、高潔さ、カリスマ的/価値創造的、そして対人スキルです。

詳細な22の特徴につきましては、下記の表の内容(表1)となっています。

普遍的に望ましくないと考えられるリーダーの特徴

上述の内容とは逆に、どの文化圏・地域を問わず、望ましくないと考えられているリーダーの特徴につきましても、GLOBE研究プロジェクトの研究者らがリスト化しています。具体的には、非社交的で、悪意に満ちている、もしくは自己中心的である、といった特徴が、効果的なリーダーシップを阻害する特徴として挙げられています。

グローバル・リーダーに必要なコンピテンシー

グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーの定義

それでは、グローバル・リーダーとして求められる行動と性向を理解したところで、実際のところどのような能力(コンピテンシー)が求められているのでしょうか?

昨今のITとAIの発展とプラットフォーム化(LMSやLXPなど)と相まって、事業戦略のグローバル化とその依存度は高まってきており、また複雑化の様相を呈しています。そうした状況下において、グローバル・リーダーとして必須となるコンピテンシーとは何か?についてここで確認します。

 Jokinen(2005)は、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーを、「普遍的な資質であり、(それらの資質を有することで)個々人が(彼らが属する)組織の文化にも縛られず、彼らが属している国籍さえも越えて、彼らの仕事を遂行することを可能にさせるものである」、と定義しています。

 すなわち、個々人の教育的・民族的な背景がいかなるものであろうと、職務記述書が定めている業務内容や権限・責任範囲がどのようなものであろうと、そして、彼らがいかなる組織に属していようとも、業務の遂行を妨げるものではないとしています。

 この定義を発展的に捉えると、昨今ダイバーシティの潮流を受けて脚光を浴び始めている、「インクルーシブ・リーダーシップ」へと繋がっていきます。
※この内容につきましては、また別の機会に記事として取り上げた際に改めてご説明したいと思います。

トランスカルチュラル・モデルによるコンピテンシーと成功基準

 Tucker et al.(2014)は、自身が開発した、『トランスカルチュラル・モデル』において、異文化能力(Intercultural Competencies)を3つの構成要素(Construct)に分類した上で、グローバル・リーダーシップの成功基準を定めています。具体的な内容は下記のとおりです。

■異文化能力
①世界観:
人々や彼らの信念の多様なあり方を受容できるリーダー行動
・オープンマインド、信条に対する敬意
・生涯学習

②社会的・対人的スタイル:
ビジネスや社会的環境における様々な人々と関係を構築できる能力
・信頼を醸成する
・社会的に適応する

③状況アプローチ:
異なる文化的価値や態度が機能している状況下で発揮できるリーダーシップスタイル
・柔軟性
・忍耐力
・隔たりのない気質
・曖昧な状況下で先導する力
・謙遜
・統制の所在(Locus of Control)、主導権

■グローバル・リーダーシップの成功基準
①グローバル・ネットワークを構築する力
・国際関係におけるネットワークを構築している
・外国人と仕事をすることへの移行が上手くいっている

②パフォーマンスを向上させていく力
・グローバル・リーダーとしての役割において一定の効果を示す裏付けがある
・海外拠点における企業活動の目標と全社的な成功をチームとして達成している
・会社が自国の労働者から働きたい企業として好感度が高い

③チームの有効性を高めていく力
・チームメンバーに対するコーチングと能力向上に取り組み、効果が見られる
・信頼を築き、人を敬う文化を醸成している
・チームから学びを得ている

とくに、上記の中で、「社会的・対人的スタイル」や、「ネットワーク」、そして「チーム」について挙げられていますが、多様性を重んじ、チーム内の多様性を最大限に生かすことに優れている有能なリーダー(すなわち、グローバル・リーダー(昨今では「インクルーシブ・リーダー」と言えますが)によってけん引される多文化チーム(Multicultural/Diverse Team)は、時間の経過とともに(「タックマンモデル」におけるチーム形成過程では、第2段階目の「混乱期」を経て)生産性が飛躍的に向上すると示す結果が導き出されています(図2)。

グローバル・リーダーを育てる人材研修・戦略とは?

グローバル・リーダー研修の企画設計と実施

 では、総括としまして、「グローバル・リーダー研修」はどのように企画・設計されて、実務の現場に生かされ、成果として企業活動の発展と存続に貢献できるのでしょうか?まず、研修の中心に据えられることは、異文化間における差異と性向について学び、異なる国や文化における人々に対する感受性をどのようにして高めることが出来るかについて学ぶ機会を提供することです。

 最初のステップとして、自国の文化的な偏見や性向について理解を深めることが重要です。この自覚こそが、異文化の人々が異なる性向を有しているということを理解する手助けになるからです。

 この過程を経て、リーダーは良いリーダーとは何かについて思考を廻らすことが出来るようになります。異なる文化圏では異なるリーダー像が存在しています。この理解を通じて、リーダーは自身のリーダーシップ行動を異なる文化的状況下で効果的に適応させることができるのです。

そして、最終的には、グローバル・リーダーは効果的なコミュニケーションの仕方を習得し、文化的・地理的境界を渡り歩けるようになります。それは、他者との共感を一層高め、より正確な意思疎通ができるようになったことを意味しています。実務的な取り組みとしましては、新入社員研修や海外赴任研修の再構築、グローバルチームの有効性の向上、多国籍企業の合併・買収などの際に、グローバル・リーダー研修を実施するといった事例が増えてきています。

グローバル・リーダーシップの戦略的ロードマップ

では、こうした実務的な取り組みとして研修を企画する上で、どのような点に配慮したらよいのでしょうか?言い換えますと、グローバル・リーダー研修を会社のビジョンや戦略の観点からどのように整合性を取り、効果を高めるものに設計し、実施していけばよいのでしょうか?

 現在、拙者は実務家研究員として米国ペンシルバニア大学教育大学院にてチーフラーニングオフィサー(CLO)分野の研究をしていますが、その際に受講しました同校の経営大学院(ウォートンスクール)の看板教授であるハビール・シン先生の講義が大変印象深かったのを覚えています。同教授の講義「戦略的リーダーシップ:戦略的優位性」(Singh, 2021)の内容の骨子である「戦略とリーダーシップの統合」の理論フレームワークは、リーダーシップを各戦略に落とし込む際の様々な課題を、オープンクエスチョン形式で投げかけており、グローバル・リーダーシップに対しても応用できる実務的な示唆を与えるものです。具体的な内容は下記の通りとなっています。

■製品差別化
・戦略:グローバル企業はどのようにして市場のポジションを築き、そしてマネージャーはどのようにして競合他社やサプライヤー、そして新規参入者との競争に対応していけばよいのでしょうか?
・グローバル・リーダーシップ:その市場のポジショニングを遂行するために、最適なグローバル人材とアーキテクチャー(事業構造)が正しく配置され、整備されていますか?

■生産コスト
・戦略:グローバル企業ではどのような要因が価値を創造し破壊するのか?
・グローバル・リーダーシップ:企業価値を高め、価値の減少を抑えるためには、グローバル企業はどのようなグローバル人材を獲得し、事業構造的な段階を経ていけばよいのでしょうか?

■優位性のある価値提案(Value Proposition)
・戦略:グローバル市場における企業のポジションと競争優位性を強化するための最適な意思決定とは何でしょうか?
・グローバル・リーダーシップ:その市場ポジションを達成しその戦略を実現化するための、最も優秀なグローバル人材と事業構造の選択は何でしょうか?

■持続的な価値提案
・戦略:グローバル市場の変遷につれて、戦略の方向性も見直されるべきでしょうか?
・グローバル・リーダーシップ:新しい戦略的方向性を実現するために、企業はどのようにしてグローバル人材を再配置し、事業構造を再構築すべきでしょうか?

まとめ

本稿の読者が、事業戦略、さらにはグローバル人材戦略の観点から、グローバル・リーダーシップの視点を反芻するきっかけを得られることがあれば幸いです。また、読者各々が直面している課題を踏まえながら、ビジョンなきVUCA(変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity))時代を創造的に生き抜くための、それぞれの組織に見合った人材の育成と戦略との統合化の取り組みに対して、本稿の内容が一助になることを願ってやみません。

この記事を書いた人

横井 博文 / TOASUパートナー講師/東京大学助教授、岡山大学教授歴任
大学卒業後、自動車業界、外資証券を経て渡米。帰国後、社会イノベーション推進を掲げ、国内外で起業。東京大学助教授、岡山大学教授(特任)に就任、グローバル人材育成を推進。グロービス経営大学院 外部講師。
現在は、米国ペンシルバニア大学教育大学院博士課程に在籍。
ヒトと組織のラーニングを高める理論と実践に関する研究を続けながら、L&DやDEI関連のコンサルティング・研修業務に従事。