COLUMN

研修コラム

2025.6.17

人的資本経営×研修:企業が“人”に投資する時代の研修のあり方

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 「人的資本経営」という言葉をご存知でしょうか。人材を資源、人件費としての「コスト」ではなく能力や経験等によって価値が変動し利益を生み出す「資本」として捉えて投資し、経営効果を最大化することを重視する経営方針のことです。
 人的資本経営は2020年に発表された通称「人材版伊藤レポート」にて人的資本の価値が示されたのを機に広まり、企業経営の現場で広く取り組まれるようになりました。また2023年3月には一部企業を対象に人的資本の開示も義務化されるなど、今後の企業経営に関わる重要な情報として扱われています。

 本記事ではデータをもとに、人的資本経営の実施状況と、研修との関係性を検討します。

人的資本経営の進展状況

 まず、日本で人的資本経営はどの程度普及しているのでしょうか。

 2024年12月に人的資本経営コンソーシアムが公開した「人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組」を見ていきます。2022年と2024年、それぞれに行われた「人的資本経営に関する調査」では、経営陣及び取締役が果たすべきアクションと人的資本経営の取組(3つの視点・5つの共通要素)の進捗度合いを6段階で評価する設問を設けています。
 その結果、2022年と比較して2024年調査はすべての項目においてスコアが「高い」もしくは「同じ」となり、進展が見られました。特に2022年の段階では「重要性を認識/議論はしているが対応策を未検討」とされていた「人材ポートフォリオの定義」「取締役会の役割の明確化」「必要な人材の要件定義」などの7項目がすべて具体的な対応策の検討やその実行まで進んでいることは大きな進歩といえます。

 一方で課題もうかがえます。6段階中の上位2段階である「対応策を実行し、その結果を踏まえ必要な見直しを実施」「実行した結果、成果創出に明確に寄与」に到達した項目は、2022年に続き2024年でもありませんでした。底上げは進んでいるものの、結果の検討や発展まではまだ至らない企業が多いということでしょう。

人的資本経営への期待感の高まり


 そんな中で、人的資本への投資に対する期待はますます高まっています。

 2022年に内閣官房から発表された「人的資本可視化指針」では、競争優位の源泉や持続的な企業価値向上の推進力は人材を始めとした無形資産であること、多くの投資家が人材戦略に関する経営者の説明を期待していることなどが背景として挙げられています。
 特に、企業による人的資本への投資は、競合他社に対する参入障壁を高め、競争優位を築く中核要素であるという認識が広がっています。さらに、それが企業の成長や価値向上に直結する戦略的な投資であるという見方も、企業や投資家の間で浸透しつつあります。こうした動きは、今後の人的資本に対するさらなる期待にもつながるでしょう。

人的資本経営における研修の効果

 では、研修は人的資本経営においてどのような効果が見込めるのでしょうか。

 まず、当然ながら企業としての成長が期待できます。
 研修を通じて社員の能力や意欲が高まれば、業務の生産性向上や職場のエンゲージメント強化が期待できます。また、企業理念や人事戦略を企業全体に共有する効果もあり、組織の価値向上につながります。こういった成長戦略や価値創造の積み重ねは人的資本への投資そのものといえるでしょう。

 さらに、開示する人的資本事項のひとつとして活用できるという利点もあります。
 先程も挙げた「人的資本可視化方針」の中では、人材育成に関連する開示事項の例として研修時間や研修費用、研修参加率、リーダーシップの育成、研修と人材開発の効果などが挙げられました。開示基準は制度や組織によって異なりますが、投資家等が企業間比較を重視していることを考えると、人材育成に関する開示ニーズはかなり大きいと考えられます。

研修を活用するために重要なこと


 人的資本経営における研修で重要なのは、自社の人材戦略と紐づいた内容・項目になっているかという点です。
 大まかな項目上は研修やリスキリングという同様の取り組みであっても、各社の求める人物像やビジネスモデルが異なる以上、その内容はまったく異なってきます。自社の目標や指標に基づいた具体的な研修内容であれば、効果が高まるのに加えて投資視点でも評価が上がります。

 たとえば人材モデルとして自律型人材をうたうのであれば、研修としてリーダーシップ・コーチングの研修、土台の組織開発としてアセスメント(評価)制度の整備などが考えられます。さらに、リーダーシップ研修を自社の構造に沿ってカスタマイズし、階層ごとに受講内容を変動させる、各人の業務形態との関連性を担保するなどの取り組みが可能でしょう。

まとめ

 これまでの時代、人材育成への投資は利益を押し下げ資本効率を低下させるものとして抑制され後回しにされる傾向がありました。しかし、人的資本経営、つまり企業が人に投資することが当然となる時代においては非常に重要な意味を持つことになります。
 長期的な発展と利益拡大につながる企業戦略のためにも、人的資本の見直しの一環として自社に合った研修や組織開発を行っていきましょう。

経済産業省「人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組」https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/toprunners.pdf
内閣官房「人的資本可視化指針」https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

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