COLUMN
研修コラム
日本の労働人口が減少する中、外国人材の採用は多くの企業にとって喫緊の課題となっています。しかし、採用後も業務上のコミュニケーション、早期離職、キャリア形成支援など、依然として多くの問題が残されているのが現状です。
こうした状況を改善すべく、社会人向けの人材課題解決ソリューションを提供するTOASUは、2025年に「学研にほんごキャリアスクール」を開校いたしました。学研グループが80年にわたり培ってきた教育ノウハウを活かした外国人材の日本語力の向上と、TOASUがもともと得意とするスキルアップやキャリア形成、ビジネスマナーや異文化理解研修まで、外国人材を雇用する企業を包括的にサポートしています。
今回は、日本の外国人労働者のうち7.4%を占め、前年から39.5%増加(※)と、特に就労受け入れが進んでいる国のひとつであるインドネシアに焦点を当てました。同時に学研にほんごキャリアスクールの受講者の活躍事例と、学研グループとしての今後の展望をご紹介します。 (※厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況 令和6年10月末時点 より)
介護現場で働きながら学ぶ特定技能外国人の挑戦と受け入れ企業の工夫
サービス付き高齢者向け住宅「ココファン練馬関町」で働くデフィさん、ノヴィさん、テサさんは、インドネシアから来日した特定技能外国人です。

日本の在留資格のひとつである特定技能は、特定産業分野の従事者として一定の技能を身につけた人材を指します。中でも「介護」は、5年間で13万5千人の受け入れを見込むなど、人材確保の需要が特に高い分野です。
学研ココファンは全国でサービス付き高齢者向け住宅(以下「サ高住」)を中心とした高齢者住宅を運営しており、特定施設入居者生活介護の指定を受けたサ高住や介護付き有料老人ホーム、デイサービスなどで特定技能外国人が働いています。そのうちのひとつである「ココファン練馬関町」は2024年から受け入れを開始し、現在はインドネシア人4名が勤務しています。責任者の浅見事業所長によると、当初は不安があったものの、業務に真剣に取り組み、入居者様とのコミュニケーションを大切にする姿勢に、今では大きな信頼を寄せているといいます。

彼女たちは、学研にほんごキャリアスクールを含め、来日後も業務と日本語や介護の勉強を両立させながら、日本語能力試験(JLPT)N3を取得しました。さらに、2025年1月の介護福祉士国家試験では、デフィさんが見事合格。全国のココファンで働く約100名の特定技能外国人の中で「第一号」となりました。多忙な業務をこなしながら国家資格に挑んだデフィさん。この成果に続くよう、他のメンバーも資格取得に向けて努力を重ねています。
一方、ココファン練馬関町も、彼女たちが働きやすい環境づくりのため、さまざまな工夫を取り入れています。日本語の会話は順調に習得できているものの、ひらがな、カタカナ、漢字が入り混じる「読み書き」に苦労している様子から、業務記録にひらがなを増やすなどのサポートを実施。
また、レクリエーションの一環として入居者にもインドネシアのあいさつを覚えてもらうなど、本人たちと相談しながら文化交流を促進し、互いに理解し合える職場環境づくりを進めています。こうした企業側の取り組みも、彼女たちの学習意欲を後押ししていると言えるでしょう。浅見事業所長は「インドネシアの方は勤勉でコミュニケーションが上手く、周囲から可愛がられる特性を持っている」と評価し、今後もぜひ受け入れていきたいと語りました。
大阪・関西万博でも注目。日本とインドネシア、官民連携で進む人材育成
こうした現場での取り組みと並行し、国や企業レベルでの連携も進んでいます。 インドネシアでは2024年末の省庁再編により「海外労働者保護省」が誕生しました。インドネシア人材の育成就労を担当し、国や自治体と就労協定を交わすなど、人材の送り出しを国家として推進しています。
日本としても、国や各自治体だけでなく、民間からも積極的に受け入れを促進していく必要があります。 2025年10月8日には、大阪・関西万博のインドネシア館において、インドネシアの人材育成と日本への就労支援に関するビジネスフォーラム「Business Forum on human resource development in Indonesia & Placement to Japan」が開催されました。
このフォーラムは、「日本の労働力不足を支援するための、インドネシアにおける持続可能な人材育成プログラム設立に関する連携」を目的としており、両国の官民関係者が集まりました。

フォーラム開催に先立ち、インドネシア労働省および海外労働者保護省の関係者による視察が実施されました。
視察団は大阪・関西万博の作業現場や詰め所を実際に訪問。会場内の清掃業務など、万博運営を裏方で支えるインドネシア出身スタッフの働きぶりを見学し、一人ひとりに声をかけるなど交流を行いました。当初は母国の政府関係者を前に緊張した様子を見せていたスタッフも、インドネシア語での温かい激励に触れるうちに笑顔となり、和やかな雰囲気で談笑する場面が見られました。
インドネシア政府関係者が現場に足を運び、親身に対話する姿からは、国を挙げて人材を送り出し支援しようとする強い意志が感じられました。
「学び」を通じてキャリアを支援。学研グループの教育ソリューションと今後の展望
フォーラムでは、株式会社学研ホールディングス 取締役 上席執行役員の五郎丸 徹氏も登壇し、学研グループの取り組みについて発表しました。

学研グループの事業領域は「教育分野」と「医療福祉分野」です。 特に医療福祉領域では、学研ココファンが運営するサービス付き高齢者向け住宅や、メディカル・ケア・サービス株式会社が運営するグループホームを中心に、全国611拠点を展開しています。 しかし、この分野は介護人材不足という大きな課題に直面しています。 厚生労働省の試算(第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数)によると、介護人材は現在約25万人不足しており、15年後には約57万人に拡大すると言われています。学研グループでは、約12,500人の介護職員のうち約300名が海外人材であり、そのうち約110名がインドネシア出身の方々です。
グループとしての人材育成体制も強化しています。社会人領域の人材課題解決ソリューションを提供するTOASUが、学研の教育メソッドに基づく「日本語」とTOASUの「ビジネススキル」を組み合わせ、企業の外国人社員が即戦力として活躍できるよう研修を実施。 また、介護の知識と技術、思考プロセスを理解し、身につけることを目的とした「学研アカデミー」の介護士養成コースといったプログラムも提供しています。
介護分野の特定技能実習生に向けては「入国前教育(マナー&介護の日本語指導)」「初任者研修前トレーニング」を、製造・清掃分野の特定技能実習生に向けては「職場での日本語力UP研修」や「N3対策指導」を実施しています。
五郎丸氏は今後の展望として「インドネシアの皆様と共に築く多世代共生モデル」を提示しました。 「『教育 × 福祉』で社会課題を解決するまちづくり」を掲げ、多世代が支え合いながら、安心して暮らし続けられる街を目指します。

学研グループのミッションは、世界に先駆けて迎えた少子高齢化の経験・知見をアジアの国々と共有し、各国のヘルスケア体制を強化できるよう支援することです。 五郎丸氏は、「インドネシアの皆さまと学研グループは『学び』を通じて日本でのキャリアを支援し、高度人材の育成に取り組み、教育を基盤にした持続可能な福祉モデルを共に築いていきます」と述べ、発表を締めくくりました。
※記事内容は取材当時の情報によるものです







