COLUMN

研修コラム

2023.4.21

ジェネレーションギャップ克服!育成で多様性のチャンスをつかむ

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「私の感覚おかしいのかなと思っていたので、相談してよかったです」(20代社員のAさん)

「リモートワークで困っていることはない?」。少し元気がなくなっているように見える20代社員のAさんに聞いたことがあります。「リモートワーク中のコミュニケーションの取り方ですね。私としては、相手も忙しいだろうからと気を遣ってメールやチャットで報告するのですが、電話や打ち合わせで確認するようにと指摘されることが多かったです」。

毎回期限をしっかり守り礼儀正しい印象のAさん。真面目に取り組んだのに上司やプロジェクトメンバーから指摘されたことで悩んだ時期もあるようです。Aさんは、小学生の頃から携帯電話を持っていたようであり、いわゆるZ世代(1章にて詳述)です。

「テキストメッセージを使ってきた世代だから、口頭でのコミュニケーションに慣れている世代とジェネレーションギャップに悩むことはあるよね」と声をかけたところ、Aさんは、「私の感覚おかしいのかなと思っていたので、相談してよかったです」と、ホッとした様子でした。

実はジェネレーションギャップ(世代間格差)だった、と気づくことで年代の異なる相手を受け入れやすくなったり、自分がおかしいのだと気にし過ぎずにすむようになるのではないか。Aさんとの会話を通し、私が気づいたことです。

本記事では、ジェネレーションギャップが引き起こす問題を取り上げた上で、現場へのヒアリングの結果も踏まえた対策を紹介します。次に、ジェネレーションギャップを多様性という観点から着目し、多様性を高める方法について研修トレンドを踏まえ解説します。

ジェネレーションギャップが引き起こす問題

若手社員(Z世代)の傾向を一言でいうと

本記事でジェネレーションギャップというテーマを扱うにあたり、若手社員を「入社年次1~5年目」程度、該当する年代は「Z世代」と置きます。一般的には、1990年代中盤から2010年序盤に生まれた世代を意味します。

Z世代を一言で表すとどのような傾向にあるのか。「承認欲求が強く、自身を認めてもらえる環境を求める」傾向があるそうです。さらに、無理をせず効率よく成長したいという欲求も強いとのことです。

もちろん、人の性質は十人十色です。前述の特徴に当てはまらない若手就業者もいるでしょう。ただ、Z世代のもう一つの特徴のとして、「価値観が多様であり、個性に幅が大きい」ということも言われています。

なぜジェネレーションギャップに対策を打たないといけないの?

■パワハラ防止法の施行

「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」をご存じでしょうか。職場におけるパワーハラスメントの防止措置を目的とした法律です。2020年6月1日に施行され、大企業では義務化され、2022年4月1日より中小企業にも義務化されました。「わたしが新入社員の頃はそのような配慮を受けていなかった」「具体的には分からないのだけれど、きっと今までのやり方は通用しないのだろうな」といった軽い認識を変える必要に迫られているということです。

■個人と組織の成長

若手社員が会社に適応できるように配慮することは、いうまでもなく、早期離職やモチベーション低下を防ぐという点で重要になります。では、実際に若手社員がどのような状態になれば、エンゲージメント向上につながるのか。

職場への信頼感、仕事の意味づけ、主体性のある行動、挑戦する経験が若手社員自身の成長や組織へのエンゲージメントにつながると言われています。ハラスメント防止という人権の観点からも、個人や組織の成長という点からも、ジェネレーションギャップを踏まえた若手社員への配慮が必要であることをご理解いただけましたでしょうか。次は、ジェネレーションギャップの対策をみていきます。

ジェネレーションギャップの対策とは?

第1章で取り上げた調査では、職場への信頼感、仕事の意味づけ、主体性のある行動、挑戦する経験が重要な要素であることを学びました。研修ラボの若手チームメンバーとその上司に、配属当初に工夫したことヒアリングしました。特に受け入れ初期に必要そうなことを抜粋して紹介します。さらに、TOASUのマネジメント研修を参考に「上司が気をつけるポイント」、そして、「教育担当者が気をつけるポイント」をお伝えしていきます。

上司が気をつけるポイント

■まずは受け入れ初期。信頼関係を築いていく、仕事の目的を理解してもらう

Q若手社員受け入れにあたり、信頼関係を築いていく上で、どのような工夫をしましたか?

一人一人にあわせたコミュニケーションをはかることで、働きやすい環境を提供しようと心がけていました。成果をとにかく出したい人、コミュニケーションを多く取りたい人、あまり表に自分を出せない人など、その人によって、特性があるので、個性を知ることが大切だと思います。
Q仕事の目的を伝えるために工夫したことはどのようなことですか?

まずは、業界の全体像の絵を共有したり、業務を大局した点から説明することからはじめました。
どうしても、同じ絵が描けていないと、コミュニケーションにおいて同じ言葉を使っていても認識にずれが生じてしまうものです。大きな絵を共有してから、少しずつ細かい業務を教えたり、理解度や性格に合った対応を心がけるようにしていました。
■若手社員に主体性のある行動、挑戦する経験を促すには

ここからは、TOASUのマネジメント研修を参考に「上司が気をつけるポイント」を紹介していきます。

①自分のマネジメントスキルについて自己評価を行う

部下の性格を理解することが重要であることは述べましたが、上司自身の内省もまた大切です。世代間のギャップという視点から、「急激な環境変化に対応する能力」と自身のマネジメントスキルが一致しているかを客観的に評価することが重要です。さらに、自己評価を通じて、上司が得意なコミュニケーション方法や最も近いリーダーシップスタイルを把握し、自分の強みを活かしたマネジメントに進化させることができます。

②目標設定のサイクルを習得する

まずは、目標策定から、目標の共有、目標管理というプロセスを学ぶことが重要です。次のステップとして、「部下にどのように挑戦する機会を提供するか」を考慮します。第1章で述べた通り、Z世代は一般的に、目標に向かって無理を承知で挑戦することが苦手です。そのため、目標に向かう障壁を取り除き、挑戦しやすい状況を整えるなどの配慮が求められます。また、挑戦を促すだけでなく、成功の機会も提供することが自信を持つために重要であるため、挑戦した先の展望も見すえましょう。

③フィードバックの方法を学ぶ

部下に主体的な行動を促すためには、上司が適切なフィードバックを行い、部下が自ら考え行動するサイクルを回すことが重要です。先述の目標設定の観点に加えて、部下が安心して努力できる環境を整えることも意識しましょう。部下に対して、「意見が受け入れられる」「この組織で貢献したい」と感じさせるために、傾聴や適切な反応などを学ぶことが良いでしょう。さらに、研修などを通じて、ロールプレイで実際に部下の立場でコミュニケーションをとることで、自分に必要なスキルが見えてきます。

ここまで、上司の注意すべきポイントについてみてきました。逆に、部下はどのようなことに気をつけていたのかも聞いてみました。ほめてもらうだけではなく、「改善してほしいところもしっかり伝えよう」と思ってもらえるよう、話を集中して聞いたり、注意されたときもきちんとお礼を言ったりアイコンタクトをしっかりとるといった工夫をしていたとのことです。このように、良いことだけでなく改善すべき点を指摘できる風通しの良い関係を築けるようになるといいですね。

教育担当者(受け入れ人事)が気をつけるポイント

■内定者期間、オンボーディング期間に新入社員とコミュニケーションをしっかりとっておく

新入社員として上司の元に配属される前に、「大きな悩みにつながる前に、人事部門の人なら相談できる」という信頼関係を築くことは重要です。実際に、「同じ上司の元でメンターとして指導してくれている先輩といかにうまくコミュニケーションを取るか悩んでいるが上司は同じチームなので気を遣ってしまい言えない」ということを人事部門の人に相談があったなどということもあります。

■上司、メンターが孤立しないように(忙しすぎないか)

特に、初めて管理職やメンターになった人が、「自分で育て上げなくては」と責任を負いすぎて、かえって若手社員の負担になることもあります。たとえば、よかれと思って1on1を長時間取ることが若手社員にとっては圧迫感につながることもあります。また、若手社員が2人以上配属された場合、それぞれの上司やメンターが別々に育成していると、若手社員の側で、どちらかの方が丁寧に指導されているといった不公平感を抱くことにもつながります。 さらに、上司やメンターが忙しすぎて育成に手が回っていない、もしくは業務時間がひっ迫してしまっているといったことも、人事部門が目をかけて早めに気づくことが大切です。

■メンターだけでなく周りの若手などもフォローできているか気配り

リモートワークが多くなり、上司やメンター以外の人とのつながりが希薄になりつつあります。配属されたばかりの新入社員や若手社員に対し、メンターが教えたり相談に乗ることももちろん大切ですが、人事部門は、メンターだけでなく周りの若手社員などにも積極的に呼びかけて、人間関係構築をサポートするようにしましょう。

多様性を生かすという視点に変えよう

DEIが重要視されている

新人社員が組織に適応することは、結果的に組織の多様性を高めることにつながります。新人社員の価値観や視点を組織が受け入れることで、認識の範囲が広がり、柔軟な判断や社会の多様な要求に応えることが可能になります。

人材育成や企業研修の分野で世界最大級の国際会議である「ATD(ATD-ICE (International Conference & Expo))」の中で、2022年に開催されたものでは、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(以下、DEI)」が最先端のトピックとして注目されていました。DEIとは、「ダイバーシティ&インクルージョン」(D&I)をさらに進化させた形で、個々の状況に応じて情報や機会を変更して提供するという考え方が加わりました。

TOASUとしても、マネジメント研修を行う際、世代間だけを強調するのではなく、現場で利用する多様性を包括的に捉えた上で、世代間という視点を取り入れるようにしています。迅速で複雑なビジネス環境の中でも、力を発揮できるようにサポートするためです。

多様性を向上させる方法とは?研修トレンドから考える

TOASUでは、組織を強化するインクルーシブリーダーシップ研修や、チーム学習を推進する取り組みなどを実施しています。

インクルーシブリーダーシップ研修では、組織内の多様性を活用するためのリーダーシップスキルを習得することができます。世代間の相違を融合させることで、多様性を持つサービスが創出されることを理解し、現場での実践のためのアイデアを提供します。例えば、職場における様々な性格や立場の人々といった「違い」にどのように対応するかを学ぶ機会が提供されます。さらに、公平な判断を行うための意思決定プロセスについても、意思決定の策定手法やロールプレイングを通じて習得するように設計されています。

チーム学習を推進する取り組みでは、個人としてではなくチーム単位で学習することで、チームメンバーの個性を生かした協働や、自主性を発揮した行動をうながすことができます。

まとめ

本記事では、ジェネレーションギャップが引き起こす問題と、それに対する対策を紹介しました。多様性を高める方法や研修トレンドも取り上げ、ジェネレーションギャップを多様性の観点から捉える重要性を示しています。

研修LABO編集部の記事は、主に30代~40台のマネージャーやチームリーダークラスが執筆しています。また、webサイトへの知見がある20代の社員が担当したり、入社4年目の社員も活躍しています。入社4年目の社員に研修LABOの発信について聞いてみました。「研修を実施する中で課題となりそうな観点や、どのような情報であれば人財育成に関わる方々のお役に立てるのかと、自身に日々問いかけ考えながら情報発信に携わっています」と、積極的な姿勢がうかがえました。